再編成

大河の賜

　砂の集落。と言っても、砂漠の中にある訳では無い。その集落は大河の下流に出来た砂州で区切られ

た、入り江のような場所にあるのである。砂は砂でも、砂塵では無く砂浜の方なのだ。

　勿論砂漠も到る所にあるのだが、技術力が大きく衰えた現在では流石にそんな所では暮らせない。

　ギルガ達が大河に沿って下る事数日、ようやくこの集落へ到着した。

「取り合えず、わしは長老にあいさつに行ってくる。お前等は準備してろ、またすぐ出発するぞ」

　そう言うとギルガはさっさと長老宅へと向かって行った。

　隊員達がしばし途方にくれていると、流石に元々ギルガ隊に居る二人はこんな隊長にも慣れているら

しく、きびきびと指示し始めた。

「まずは食料と水、そして目ぼしい武器があればそれを手に入れてくれ」

　しかしそれにレイが異論を唱える。

「でも交換出来るような余分な物が無いですよ」

　そう、今回はキャラバン隊としてでは無い為に、必要最低限の物しか持って来ていないのだ。今手元

にあるのはキメラ撃退用の武器と弾薬が少々、後は保存食の魚の干物が一日分程。これではとても鉄の

集落までの食料を手に入れられる訳が無い。

　だがその隊員は顔色一つ変えずにこう答えた。

「リック副長に付けといて下さい」

「え？良いんですか、そんなので」

　レイは驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ええ、リック副長の隊がここに訪れるのは解っていますし。キャラバンはそれだけ信頼されているの

です」

　とは言え、キャラバン員であるミルド隊よりの志願者も驚いた顔をしていたのだが。

　どうやらギルガ隊と言うのは色んな意味で他とは違う隊らしい。それが良いか悪いかは別として、こ

う言う事態には役に立つ。

　ともかく全員が出立準備の為に忙しく砂の集落の中に散って行ったのであった。

　

　リック隊が到着したのはギルガ達が到着してから、更に２時間が過ぎた後だった。予定ならばギルガ

隊が訪れた前日には着いているはずだったのだが、どうやら少々遅れているようだ。

　日も落ち初めており、後２時間もすればすっかり日も落ちてしまうだろう。そこで仕方なく今日はこ

の集落に泊まる事になった。

　そして例の如く集落では歓迎の酒宴が開かれている。

「しかし隊長、久しぶりですな。別れてからすでに数ヶ月、早いものですぜ」

「ああ、その間に随分隊員も増えたみてえだな」

　ギルガとリックは久しぶりに二人でゆっくり呑んでいる。一泊したのは一つはこの為もあったかも知

れない。

「ええ、何せうちの隊長は人使いが粗いですからね。早めに鍛えておかないと、すぐに潰されてしまい

やすからね」

「ケッ、好き放題言いやがる」

　二人の喧嘩ごしの口調を畏れているのか、この二人に近寄ろうとする者もいない。この二人は元来こ

の調子なのだが、それでも酒の席の事何が起こるか解らない。さわらぬ神に祟りなしなのである。

「しかしまた面倒な事になってるみたいですね」

「ああ、それでまた出来る奴が欲しくてな。まったく・・・この数ヶ月で随分死んでしまった・・」

「そうでやすね・・・」

　しんみりと杯を酌み交わす時もある。そんな時は酒面に映った三日月が、何故か酷くもの哀しく思えた。

「では、あっしも付いて行って良いですかね」

「ん、お前までいなければ隊がなりたたねえじゃねえか」

「いえ、古参の中にはすでに副長格くらいにはなっててもおかしくねえ奴も何人かいますぜ。隊長、隊

員達も日々成長してるんですぜ」

「うーむ」

　ギルガはまだ暫く悩んだものの、リック以上に彼の片腕が勤まる者がいる訳も無く。静かにその意見

を受け入れた。珍しくこの二人の意見が合うと言う怪現象が、ここに起こったのである。古参の隊員が

いれば思わず酒を吹き出したかも知れない。

　そして一夜が明ける。

BACK・ EXIT・ NEXT