活かす事を

一つの望み

　砂の集落で編成を終えたギルガ隊は、翌日即座に砂の集落を出発した。ここからの行程は片道約１０

日前後と言った所。とにかく今は急ぐしか無いが、この場合は丁度良い時間かも知れない。

　リック副長が入った事もあり、今回はほぼキャラバン員で占められている為に、行程は以前に森の集

落から出発した時よりもスムーズに進んだ。

　ギルとレイもそれに良く付いて行った。一言の不平も洩らさず、最もそんな事を言えば放り出されて

しまったかも知れないが、ともかく歯を食い縛ってキャラバンの強行軍に付いて行った。途中に休憩も

交える事８日、急ぎに急いだ結果だ。

　ギルガなどは５日で行きたかった等と言い、リックからすかさず突っ込まれていたが。

　キメラの巣もこの危険地帯にしては驚く程キメラの数が少なかった。

「こりゃあ、やはりあの小僧かよ・・・」

「何か言いましたかい、隊長」

「いや、何でも無い。急ぐぞ」

　ギルガは考えるのは後にして、取りあえず急ぐ。今はこの方が都合が良い。

　そして彼等からすればあっけない程簡単に鉄の集落へと到着したのだった。

「隊長、呆気ないでやすね。逆に不気味ですぜ」

　リックも違和感が拭えない様子で、表情が何処か強張っている。

「ああ、でも今は好都合よ。わしはアリア長老の元へ向かう、お前等はいつでも出撃出来るようにして

おけ」

「へい、承知しやした。あっしらは装備を整えるとしやすぜ」

　後をリックに任し、ギルガは長老宅へと向かった。

　住宅街を抜け、もう通いなれた道を駆ける。珍しく駆けた。気持ちが流行るのを抑えきれる人間は少

ないだろう。楽しみとは少し違うかも知れない、言うなれば期待、そう言ったものが身体を突き動かす。

いや、ただ動いていないと気がすまない。それだけかも知れないのだが。

　警備員が驚くのも構わず、自動扉をこじ開けるようにして入り。静かな廊下を駆ける。

　この廊下はいつも不思議な程静かだ。

　使われないエレベーターの前を抜け、階段を駆け上がる。ギルガは自ら進んで行くのが実感出来る分、

昔から階段の方が好きだった。だから別に苦とも思わない、今も。

　驚くべき体力で駆け上がり、ドアの前で初めて止まった。深呼吸して落ち着かせる。

　いつも通り待ち構えていたように秘書がドアから現れた。

「ギルガ隊長、お入り下さい」

「ああ、邪魔するぜ」

　美人の横を通り、室内へ入り込む。ふわりと浮き上がった風が、良い匂いを運んで来た。

「ギルガさん、早かったですね」

　奥にはアリア長老が微笑を浮かべて座っていた。僅かに苦笑混じりの。

「ああ、これが急がずにいられるか。それで成果は出たのかい」

「はい、何とか使用出来るレベルにまで達したと思いますわ。ただ・・・」

「それほど当てに出来ねえか」

「ええ。詳しい事はリグ博士に」

「ああ、勝手に入るぜ」

　ギルガはアリアの前を通り、リグ博士の研究所へと向かう。

「ご苦労さん」

　その時にふと言ったギルガの言葉が、アリアの疲労を少しだけ癒した。目を窪んでいるように見させ

ていた、目の下のクマが打ち消されたような。

　そしてアリアは静かに眠りに落ちた。安心した顔で。　

BACK・ EXIT・ NEXT