完全など在り得ないと

絶対打破

「おう、久しぶりさの」

　ギルガを皺だらけの笑顔が向かえた。萎びたピーマンのようにしおしおだが、これがまた結構味があ

る顔を造る。大多数の欠点がその一人にとって欠点であると言う必然性も無いのだろう。

「ようやく実用化出来そうだと聞いて、早速やって来た。首尾はどうだい」

「うむうむ、なかなか骨が折れたがね。どうにか使えそうさね。まあ、見てくれい」

　そう言って皺々の笑顔、リグ博士が奥へ案内する。

　そこには歯車やらチューブやらが剥き出しになった機械が、更に無数の管や線を繋がれた状態で安置

されてあった。そう、いつぞやギルガが戦利品として持ち帰った、例の剥き出しの機械である。

　この力を増減し、その方向性を操る機械を使えば、今ギルガが考える途方も無い作戦に現実味を帯び

らせる事が出来るのだ。

　その考えとは。

　キメラ王の居場所、つまりキメラの本拠は実は初めから解っているのだ。元アポクリスプの研究所、

キメラを生み出せる現在ただ一つと言って良いその場所しかありえないのだから。

　だが、そこへこちらから仕掛けるのは不可能に近かった。何故なら、そこは未だほぼ全ての機械が生

きており、当然防衛兵器も生きている。その圧倒的な防護フィールドは、今となってはそれを破壊する

威力を持つ兵器を生み出す事は不可能。つまり事実上、その研究所跡に一歩でも踏み込む事は不可能だ

ったのだ。

　だが、逆に言えばそのフィールドさえ突破出来れば・・・・。そう、ギルガの考えとは本拠への奇襲

作戦なのだ。

　ただ、如何にフィールドを突破出来ても、そこがキメラの文字通り巣窟である事は変わり無いのであ

るが。

「それで、あのフィールドには通用するのか」

「うむうむ、解らん」

「んあ？」

「解らんと言っとるのよ」

　流石のギルガも開いた口が塞がらない。この博士は変な所で馬鹿正直なのか真面目なのか・・・・

「じじい、それは無理って事じゃねえか！」

「まあ、待てい。誰も出来んとは言っとらんがね。可能性はあるし、理論も筋が通っとる。しかし、そ

れを証明する為の実験が出来んのさね。あの防護フィールドに匹敵する防衛装置はこの鉄の集落にしか

無いのだが、ここで実験してしまうとキメラどもにあっと言う間に発見されてしまうのよ」

「じゃあ、敵の方を使えば良いじゃねえか。その方が手っ取り早い」

　今度はリグ博士の方が呆れたように、軽く溜息を付いた。

「お主は無茶言うがね。一度でも使ったらバレてしまうさね。そうなれば、もっと警戒されてしまい、

奇襲なんて出来んて」

「つまりはやってみるまで解らんと言うのか」

「うむうむ」

　ギルガは唸りながら腕組みをし、ぐるぐるとその辺を回り始めた。

　リグ博士がぼんやりとそれを眺めている。少し面白そうだ、隠しても目が笑っている。

「で、どうするさね」

「やるしかあるまい。どうせ一回こっきりしか通用しねえ作戦だ。もう行き当たりばったりでもやるし

かねえ。他に当てもねえしな」

「うむ、では準備が終るまでに何とかもっとパワーを上げておくて」

「よし、頼んだぞ」

　そう言い終わると、ギルガは火のようにその部屋を飛び出して行った。

「うむうむ、忙しくなってきた事さね」

　リグ博士は再び研究に没頭し始めた。研究者の性分なのか、どうやら彼も熱中症らしい。

BACK・ EXIT・ NEXT