言い知れぬ予感

気取らない認識

「おい、ロン。まだ終わりじゃないぞ、これを倉庫へ運ばないと」

　そう言うとギルはひょいと丸太を肩に担いで、こっちだぞ忘れたのか、と手招きした。

「・・・ええ」

　ロンはキメラを見て以来、不思議な感覚に襲われていた。そしてそれが訪れる度、大事な何かをふっ

と思い出しそうな気がする。ただ、焦りはしなかった。これで良いという気がするのだ。太陽が東から

西へ沈むように、高いところから低いところへ流れるように、それが正常な理なのだと。

「おーい、早く行かないと日が暮れてしまうよ」

　レイの言葉に空を眺めてみると、確かに太陽は大地から顔を出しているような位置にあった。

　ロンは未だぼんやりと考えながらも、静かにギルの後を追って行った。

　何故こうもキメラが気になるのだろう・・・。そんな風にいつまでも思いながら。

　手に持った堅い棒状の物が静かに震えているように感じられた。

「長老、今戻りました」　

「うむ、ご苦労だったのレジトよ」

　長老宅にはいつものように青年達のリーダーであるレジトが報告に来ていた。あらゆる事態に対処出

来るように、長老たる者は常に情報を求める。それがどんなに些細なものであっても。

「今日はキメラに遭遇しました・・・・」

「ん、キメラが・・・・。そうか、最近活発に動き始めているとギルガの奴が言っておったが・・・。

この集落にも来おったか・・・」

　ギルガとは先日この集落に訪れたキャラバン隊のリーダーである。彼はこの集落の出身であり、誇り

でもある。数少ないキメラバスターの一人でもあり、その資質とリーダー性は高く評価されている男だ。

　キメラバスターとは文字通りキメラを倒した者の尊称であり、即ち人類の希望たる存在である。

「してレジトよ、どのタイプのキメラかの」

「それが・・・・ケルベロスなのです・・・・」

「ケルベロスだと！？・・・・・うーむ、よりにもよって一番厄介な奴が来たものだて・・・。皆には

いつでも逃げれる準備をしておけと伝えておいてくれい」

「はい、解りました。お任せください」

　レジトは長老に一礼すると、静かに出て行った。おそらく早速知らせに行ったのだろう。ぐずぐずし

ていては取り返しの付かない事になるかも知れない。

　ケルベロスがここまで来てくれなければ良いのだが・・。今までも何度か集落を移動しているとは言

え、住み慣れた土地を離れるのは不安になるものだ。折角落ち着いて来ていたと言うのに。

「ま、そう滅多には襲って来ないのだが・・・・、警戒は強化させねばの」

　その時、軽くドアがノックされた。

「おう、入っておいで」

　その声に応じてドアが静かに開き、一人の若い女性がするりと入って来た。

「長老・・・、またキメラが・・・・・」

「リアよ、心配する事は無い。一体だけだと言うから、おそらくは偵察か見回りだろうて。それぐらい

なら今までも何度も在った」

「はい・・・・・。でも、森へ行く人達にもしもの事があったらと思うと・・・・、ロンにも・・・」

「お前は優しい子だの。心配せんでいい、わしも伊達に歳はとっとらん。すでに対策済みだわい」

　ラフィアス長老は宥めるように、リアの頭を優しく撫でた。

　すでに日も沈み、静かに夜は深けていく。それはいつものように。　

BACK・ EXIT・ NEXT