開滅

開門

　アリア長老からの通信。

「いつでも送れます。そちらの準備は？」

　振り返ると、皆の表情は誰も不思議な程良く似ていて、それは覚悟した時に見る事の出来るあのギラ

ギラとした眼だった。

「こっちもいつでもいける」

「解りました、それでは進撃開始をお願いします」

　そしてギルガは背の長刀をぬらりと抜き放ち、それを光に翳してから目標へ振り下ろす。

「全隊前進！！」

「おおおおおーーーーーッ！！！」

　同時に駆け出したギルガを筆頭に、全隊が喰らいついて行くかのように後を続く。

　土煙を上げたその姿は、一個の巨大な獣と言った風にも見えた。徘徊だか見回りをしているキメラ達

も流石にそれには驚いたようで、一様に動きが鈍重になっている。

　元々人間に脅威など持ってないキメラ達に、拠点警備等と言う考えもあるはずが無く。人間達の進行

上に居たキメラ達はあっという間に切裂かれ、無惨に屍を晒した。下級種なのだろう、獣の呻き声を上

げていた。

　そして人間達の目の前に不可侵のフィールドが立ちはだかる。

「アリア、頼む」

「はい、そのまま進んで下さい」

　突如天空が輝き、光の矢が飛来した。そしてフィールドへあっと言う間に突き刺さる。

　するとそのフィールドは不可思議な音を立てながら揺らぎ、反転し、静かに空に融けていった。代わ

りに眼前に鉄骨コンクリートの無骨な建物がはっきりと、今はその外壁の染みまで見えた。

「成功、成功しました！！」

　通信機越しに女性研究員らしき声がする。

「ギルガさん、今です！」

「おおッ！！全隊突入！！」

　アリアのゴーサインに応じて、ギルガが再び号令を発す。そして人類は大戦後、初めてこの研究所へ

と足を踏み入れたのだった。

　轟声が木霊する。

「何故だッ！！」

　オーディンは怒声を上げていた。

　静かな研究室ユグドラシル内にそれは良く響く。

「何故、何も出てこぬのだ！」

　眼前のパネルには色んな数値と文字が浮かんでいる。何かの成分とその保有量だろうか。

「確かにこの成分は我等キメラと同じ物。だがそんなものはどうでも良い！知恵の、そして心たる部分

が何故何も判明しないのだ。こいつにはあるはずだ、明確にそれがあるはずなのだッ！！それが、何故

何も出てこぬのだ・・・これではただの・・・ん！？」

　そうして両腕を机に叩きつけようとした時、階下からだろうか、ドアの遥か向こうから音が聴こえた。

この静粛なキメラの聖地では珍しい。しかも更に何事かの音が響いてくる。　

「何事だ？」

　即座にミーミルに問う。この擬似人格付きのコンピューターは研究所の管理も一手に担っている。

「・・・侵入者あり・・・排除、交戦中」

「馬鹿な！」

　この研究所内にキメラ以外の者が入れる訳が無いのだ。

「・・・人間・・多数侵入・・・交戦中・・・交戦中・・」

「私の研究を邪魔する気か、愚かな人間めが！全て排除せよ！！」

　オーディンは高らかに命じる。研究所内には防護フィールド程の設備は無いが、それでも人間如きに

は充分なはずだ。

「全キメラに伝えろ！」

「・・・侵入者あり・・・排除せよ・・・排除せよ」

　駄目押しとばかりに、研究所の全ブロックに伝える。これで全キメラが怒り狂って人間共に襲い掛か

る事だろう。そして無惨に、無意味に屍を晒すに違い無い。そう考えると愉悦の笑みが心から浮かんで

来る。オーディン・・博士は苛立ちを紛らわせるように下卑た笑い声を洩らし始めた。

　研究所内に警戒音が響き渡る。

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