貫け

乱戦

　研究所内に突入した人間達の前に、どこに居たのか溢れる程のキメラが現れた。ワイバーン、ワイア

ーム、ヒュドラ等の竜の亜種からドワーフ、エルフと言った幻想世界の住人までがぞろぞろと現れた。

ゴブリンやコボルド等、弱いが数の多いキメラも居る。

　上位種であるドワーフとエルフが指揮をとっているようだ。

「指揮官を狙え！！」

　総隊長であるギルガの叫びに応じて、一斉に銃弾が降り注がれ、剣戟の音が研究所内に轟く。警備シ

ステムの作動音が聴こえないのは、当に壊されているからだろう。敵味方が密集し過ぎている為に、狙

いがつけられないと言うのもあるかも知れない。

　見事な程の乱戦である。

　敵味方双方が入り乱れ、ともすれば相討ちにもなりそうな程にごった返している。そして、どちらの

ものともつかない叫び声がそこかしこで上がり、赤や緑、黒ずんだもの等様々な血飛沫が噴き上がる。

　ワイバーン、ワイアームと言った飛行能力を持つキメラも室内ではその能力を活かし切れないのか、

人間側にとってその能力は脅威では無くなっている。その為か、徐々に人間側が押し始めているように

見える。

「斬って斬って斬り飛ばせ！！」

「頭部を狙って！！」

「グヒャアアアアアアアア！！」

「ゴボボボボボボボッ！！」

　そんな怒声もそこかしこから上がる。誰もが血まみれになり、もはやどれが誰のどちらの血なのかも

死骸なのかも解らない。ただ屍のみが累々と量産されていく。地獄絵図さながらの景観が広がっている。

「隊長、道が開きやしたぜ！お先に行って下さえ！」

　リックがゴブリンの頭を叩き割りながら叫ぶ。キメラの半数はすでに倒れ、先に階段が見える。鉄の

集落よりの情報によると、研究所の制御室は地下にあると言う。そしてその更に下、最下層にはキメラ

王ミドガルズオルムが居ると。

「よし、リック後は頼むぜ！余力がある奴はわしに付いて来い！！」

　そう言って、血塗られた愛用の長刀を新たな血に染め返しながら、ギルガは文字通り道を斬り開く。

それにミルドを筆頭に隊長クラスの人間が１０人程とレイとギルが続く。人間側もすでに４０人程まで

減っている。キメラ側と比べれば少ない犠牲であるが、総数から言えば不利な感は否めない。

　疲労と言う問題もあり、人間が勝利するには短期決戦、つまりはキメラ王を討ち取るしかないだろう。

　ただ、今回はこの研究所に居るだろうロンを救出する事を最優先とギルガは突入前に全隊へ命じてい

た。ミドガルズオルムを倒せるのは彼だけだと。

　だが当然それを良しとしない者も居る。彼等にしてみれば、そんな身も知らぬ若造に何が出来るかと

言った所だろう。

「まずは制御室・・ユグドラシルを叩く！」　

「おーーーーーッ！！」

　しかし制御室をまず抑える事は誰もが納得している。それが結果的に捕虜を助ける事になるとすれば、

誰も異論は無い。それに誰もがギルガに全幅の信頼を置いているのだ。

　そして階段を駆け下りながら、穴の開くほどに眺めた研究所の図面を思い返す。キメラに占拠される

前の図面ではあるが、おそらくそう変わってはいないだろうと予測されている。現に、今まで通った道

筋も図面の通りだった。キメラ達はそのまま使っているのだろう。

　途中に居るゴブリンやコボルドの群れを叩き伏せ、監視カメラ付きレーザー、ガトリングガンと言っ

た物騒な兵器に少なからず怪我を負いながらも突き進み。とうとう、研究所の最深奥ユグドラシルまで

人間達は辿り着いた。

　だが、そこには・・・。

「デュラハン・・・・それにトロール、タロスか！？」

　首無しの全身鎧を纏い、片腕に自らの頭部を持つ大剣を持つ大柄の騎士。そしてその左右に霜色の巨

人と青銅の巨人が重苦しい威圧感と共に立塞がっていた。

　この研究所の最後の衛兵、門番と言った所だろうか。

「フーーーーーーーッ！」

　そして首無し騎士は大剣を人間共に振り付けた。それを合図にして左右の巨人が襲い来る。

「行くぜ！！」

　ギルガは長刀を握り込み、ぐっと踵に溜め、気合と共に解き放った。

「はいッ！！」

　ミルド達が続く。煌く轟音が戦闘開始を盛大に告げた。

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