濁る感覚

剛力

「ヌオオオオオオオッ！！」

　青銅の巨人・タロスが文字通りの鉄拳を振り下ろす。大人でも楽にプレス出来そうな大きさだ。それ

がスピードに乗って向かい来る。

「つあッ！！」

　ギルガも負けじと気合を乗せて長刀を振るう。耳障りな金属音が響き、足が地面にグッとめり込んだ。

刀身に片手を添え、全身の力を混めた。ようやく鉄拳が静止し、両腕に鈍い痺れが走る。

「はッ！！」

　そこへミルドが愛用の槍を突き付ける。

　しかし軽い音と共に簡単に弾かれてしまった。

「くッ！」

　振るわれた鉄拳をミルドは辛うじて避ける。

「こいつはやはり斬れねえか・・・・」

　タロスの能力はその恐るべき全身の強度。並みの刃物等、弾かれるだけで容易くへし折られてしまう

だろう。ミルドの槍も少し刃毀れしてしまったようだ。先が少し欠けている。

「ゴウウウウウウ！！」

　トロールの方も苦戦を強いられているようだ。その手に握られた棍棒の一撃は頭蓋骨も簡単に砕かれ

てしまう。

「ぐああああああッ！！！」　

　一人まともに喰らい、壁際まで吹き飛ばされて行った。

　タロス程では無いが、白兵戦では如何にも分が悪い。大昔の伝説、神話でも巨人とまともに闘えるの

は神くらいだと言われている。それ程にその強度と力は凄まじい。

「愚かなり人間」　

　重い風が煌く。

　咄嗟に構えた長刀に衝撃が走り、両腕が痺れた。

「くッ、この生首野郎がッ！」

　気がつくとすぐ側にデュラハンの姿が。片腕の首が薄ら笑っている。

「キメラってのは、どいつもこいつも気にいらねえ笑い方しやがってッ！！」

　デュラハンの大剣を受け流し、まだ痺れの残る腕で思いっきり長刀を閃かせた。

「笑止」

　しかしその一撃は容易く見切られ、振るわれた剣戟が刀身に刻まれる。再び両腕に衝撃が走り、思わ

ず長刀を落としそうになったが、必至に柄を握り込んだ。

「ったく、卑怯な能力持ちやがって！」

　デュラハンの能力は痺れと言われている。その意味が今やっと解った。衝撃で腕の、いや全身の力を

少しずつ奪ういやらしい力だ。猫が鼠をいたぶるように、徐々にだが確実に。

「これも人間が付与した能力さ」

　デュラハンはまるで細枝でも操るように、軽々と何度も恐ろしい程の速度で大剣を振るい続ける。指

先の感覚が消えて来た。

「くッ、このままでは・・・」

　流石のギルガもこれには堪らず、助けを探すが。誰も人に構っている程の余裕は無さそうだ。特にタ

ロスの方が危ない。確かタロスには・・・・・何か・・・。

「我の前に立つ者は冥府に誘われる。お前も早く落ちよ」

　叩きつけられる剣戟が鈍く脳にまで響く。もう、肘までの感覚が希薄になっていた。長刀がまだ手に

握られているのかすら解らない程に。

「くッ・・・」

　全身に走る衝撃が重い、それを感じる感覚すら閉じそうだ。

　意識に重い帳が下りてくる。少しずつ・・・・、少しずつ・・・・。

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