もう一つ付与されたモノ

アキレス

　意識が沈むその中で、しかし一つ思い出した事がある。

　光明、それを最後の砦として歯を食い縛って意識を浮き上がらせる。海底から水面へ掻き上がるよう

に、ゆっくりと確実に重い海を掻き分けて。

「ミルドッ！踵だ、踵を狙えッ！！」

　無敵の青銅巨人であるタロスにも一つだけ弱点があった。それを今はっきりと思い出す、そして叫び

と共に一気に意識を持ち上げた。腕は痺れ、身体にもだるさが充満しているがまだいける、いけるはず

だ。

「つあああああッ！」

　輝きを増した長刀を渾身の力で横薙ぎに払い抜く。

　乾き澄んだ音色と共に更に一歩踏み出した。

「小賢しい真似をする！」

　がちりと鍔同士がぶつかり合う。鍔迫り合いならば剣を振るえない。振るえなければ衝撃も起こせま

い。だが・・・。

「くそったれがッ！ミルド、早く頼む！」

　全身の筋肉が張り裂けそうな程に軋み、腕に残った微かな力も吹き消されそうだ。力でも負けている

分、鍔迫り合いもそう維持出来ない。

　ギルガは救援を待ちながら、じっと耐えるしか無かった。

「大人しく、楽になれ」

　片腕の生首が薄ら笑っている。

「ギルガさんッ！」

　しかしミルドも他を見ている余裕等無かった。重く鋭い鉄拳が唸りを上げて飛んで来る。それを危う

く避けながら距離を取った。が、その距離も見る間に詰められる。速い。

　タロスは狙いをミルドに絞ったらしく、執拗に追って来る。

「踵、踵を」

　隊員達に指示するが、彼等も容易には近づけず。速過ぎて狙ってはいるのだがまったく当らない。

　左に目をやればトロールの棍棒が閃き、幾人かは壁に吹き飛ばされたようでめり込んだように動かな

い。ただトロールの身体にも少なからず傷が付いている、それだけが救いだろうか。

　ミルドは一つの決意をした。無駄に考えている暇なんて無い。

「左右からッ！」

　頷いた隊員３名が左右からタロスに銃弾を撃ち込み、一人が戦斧を叩きつける。すべて跳ね返された

が、タロスの動きが一瞬だけ鈍った。

「はあッ！」

　今とばかりにミルドは重心を低く、気合と共に跳ぶ。

「ヌオオオオオオッ！！」

　振り下ろされた鉄拳で視界が暗く染まる。

「くッ！」

　咄嗟にスライディングの要領で滑り込んだ。髪の後ろで風が弾ける。

　そしてそのままタロスの股下を滑り抜け様に踵へ愛槍を一閃。

「ヌオオオアアアアアアアアッ！！！？？？」

　タロスの踵がピシリと割れ、杭のようなものが崩れ落ちる。そしてそこから何かが噴出した。

「あッ！！」

　ミルドは慌てて離れる。タロスから噴き出た言わば体液が降りかかった所から、嫌な臭いと共に焦げ

付く匂いが漂って来た。

「うがあああああああッ」

　避け損じた隊員の一人からブスブスと湯気が上がっている。

「焼け溶けた鉛だわ・・」

　あの独特の匂いがする。

　そしてタロスは自らの体液である熱鉛の池に崩れ落ち、そのままドロドロと溶けてしまった。

「人間めが！！」

　デュラハンの目の紅が一層どす黒く染まった。ギルガに押しかかる力が増す。

「弱点を与えたのも人間だッ！この生首野郎がッ！！」

　長刀の切っ先を下ろし、かかる力を利用して大剣を受け流す。ギリギリと悲鳴を上げながら大剣が足

元へ突き刺さった。

　そして今までの痛みを込めて、ギルガは思いっきりデュラハンの顔に体重を乗せた蹴りを打ち込んだ。

「グボッ！！」

　奇妙な声を上げて、顔がひしゃぐ。

「ミルド、力を貸せ！残りはでかぶつだッ！！」

「了解！！」

　受けた傷の痛みも跳ね除けるように、皆が腹の底から声を上げた。

　ギルガは服を破き、右手の握りをそれで厳重に縛り付ける。

「きやがれ、生首ッ！！」

　そして腰溜めに長刀を構えた。刀身はぬらぬらと輝いている。

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