死神も死国へと

死の誘人

　大剣が視界を染める。

「人間如きが、卑小な人間如きがッ！！」

　怒り狂うデュラハンは執拗なまでに大剣を振るう。それは物理学と言った人間が考えたあらゆる法則

を無視して、ありとあらゆる所から恐ろしい速さで迫った。

「くッ！！」

　まともにやりあうのは愚行だと、ギルガはひたすら避けるのだが。やはり避けきれず、斬戟を長刀で

受ける破目になってしまう。その度に残り少ない感覚が削り取られるのは、命を削られるのにも似てい

た。現に、一歩一歩死に近づけさせられているのだから。

　何とか両足をバネのように使い衝撃を逃しながら、救援を待つ。

「はあああああッ！」

「ぬぐッ！！」

　ミルドの槍がデュラハンの後頭部を切裂いた。

「卑怯者めッ！！」

　生首が罵りつつ、デュラハンは壁を背にして大剣を構えた。

　この手のキメラはあまり多数を相手取るようには出来ていない。ミノタウロス、タロス、トロールの

ような前線タイプでは無く、要人暗殺かボディガード向きと言った所だろう。

　だが、それでも依然脅威である事には違い無い。その速すぎる剣戟ならば、３，４人相手でも充分に

闘える事だろう。

「二人がかりならば勝てると思うたか、人間がッ！！」

　くんと上半身が前傾し、伸ばされた腕から大剣が唸りを上げて斬撃を生み出す。

「ミルド、まともに受けるな！距離を取れ！」

「はいッ！」

　ミルドは槍の利点であるリーチを活かし、デュラハンを牽制する。ただ、デュラハンが持つ大剣も恐

ろしくリーチが有るので、中々効果的に作用しないのが辛い。

　この速い剣戟に対抗するには、二人で同時に攻めなければならないのだが。それにはギルドの長刀で

も長さが少し足らなかった。あっと言う間に壁際まで追いやられてしまう。

「愚か者、痴れ者、小人がッ！！」

　圧倒的なまでの剣速は衰える事を知らず。最早避けるのも困難になっている。

「この生首がッ！！」

　そう言って、一振りすれば五振りが返って来ると言った感じで、如何にも収集がつかない。

「ああッ！？」

「ミルドッ！？」

　ミルドの空いた脇腹に大剣が飛来する。辛うじて槍で防いだものの、へし折られ。その折れ曲がった

槍ごと反対側の壁まで弾き飛ばされてしまった。激突し、その場に蹲る。

「くそおッ！！」

　しかし振るった刃は届かない。

「もう少し、もう少しだけ長ければッ！」

　そう真心から願った時、それは起きた。刀身が伸びたのである。否、刀身そのものでは無い。それが

纏った光が伸び、鋭く研ぎ澄まされた刃のようにデュラハンの肩を切裂いたのである。

「ぬおッ！！？」

　デュラハンの肩アーマーがずり落ち、通路に転がった。

「人間め、おかしなモノを・・・」

　ギルガは不覚にもその時やっと思い出した。自らの持つ、長刀に秘められた能力に。

「わしとした事が・・」

　しかしそれが逆にチャンスを生んだ。予想外の一撃がデュラハンの動きを止める事になったのである。

生首が警戒するような、不思議そうな目で睨んでいる。

「疾走れ、鬼斬丸！！」

　ぐんと伸びた光刃を一閃。デュラハンの利き腕を根元から切り落とした。そして更に一閃。

「ぬごッ！！？？？」

　真っ二つに横に両断された生首が口を歪めたままゆっくりと零れ落ち。煙と共に消え失せた。人型の

鎧がバラバラと通路に虚しく音を立て。最後に突き刺さった大剣が乾いた音を立てて転がった。

　流石のギルガも疲労と痺れでその場に崩れ落ち、荒い息を吐く。そして長刀の光は薄れて空間に溶け

るように消える。

　しかしまだ後一体、トロールが居る。

　ギルガは呼吸を整えながら、ギラリと巨人を睨み付けた。

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