でぶ力

荒撃

　隊員達は苦戦を強いられているようだ。人数を回したのは良いが、そう広くない通路の為にそれもあ

まり意味が無いようで、振り回される棍棒で各個撃破されていっている。

「ミルド、大丈夫か？」

「はい・・・、でもしばらくは・・・」

　美しい顔が苦痛に歪められるのを見るのは尚更忍びない。命に別状は無いようだが、かなりのダメー

ジを追ってしまったようだ。まだ動ける分、ギルガの方が良いかも知れない。

「でも、凄い刀ですね・・・」

「ん、如意鬼斬丸とでも改名するかな」

「ふふ・・・」

　ミルドは少し笑った。そうするのも少し痛そうだったが。

「わしはけりをつけて来る。お前は休んでろ」

　ミルドを残し、巨人の方へと駆ける。両腕には未だ痺れが残り、握力も回復していないが、両足を筆

頭に下半身はまだまだ健在だ。若造に負けるか、とばかりの俊足で一気に詰め寄る。

「お前等は離れて援護しろ！」

　動作の遅れた隊員を頭を低くして何とか跳び越え、そのまま反転して天上を蹴る。

「でかぶつがッ！目障りだッ！！」

　そして体全体を長刀の一部として、弾丸のようにトロールへ降下した。

「ブオオオオオッ！！」

　醜い叫び声を上げ、トロールは手にした巨大な棍棒を蝿でも叩き落すかのように、ブン！と振り下ろ

した。デュラハン程では無いものの、速い。

「ぬおッ！？」

　上半身を何とか反転し、長刀で受け流した。ガリガリと削られるような衝撃が両腕の力を奪っていく。

歯を食い縛って耐え、刀の代わりとばかりぶっとりと出っ張った腹に蹴りを入れて反動で離れる。足に

残るブヨブヨとした感触が気持ち悪い。

「ブオオオオオ！」

　豚が潰れたような呻き声を発したが、ほとんど効いていないようだ。それを誇示するかのように、ニ

タニタと笑いながら腹を叩くのが如何にも小憎らしい。

「このでぶ餓鬼がッ！！」

　名前だけは知られているものの、以外に情報の少ないこのキメラの能力はこれらしい。衝撃を吸収す

る特異な肉体、腐ったゴムのようでもう二度と触れたくは無い。

　良く見れば、多少の切り傷はあれど弾痕の類は見えない。貫通性の高いライフル使いも居たのだが、

それさえこの脂肪壁を貫く事は出来なかったようだ。

「銃器は使うな、弾の無駄だ！」

「了解！！」

　隊員達は即座に銃器を捨て、投げナイフや長針を構える。その手の武器が扱えない者は味方の救護へ

向かったようだ。３，４人はすでに壁に打ち抜かれたように貼り付けになっている。この馬鹿力だけな

らタロスの鉄拳にも劣らないかも知れない。

　特に弱点の逸話がある訳でも無く、正攻法で闘うしかあるまい。

　ギルガは徐々に握力の戻りつつある両手でしっかりと長刀の柄を握った。刀身の光は薄れたままであ

り、あの光刃も期待出来まい。となれば・・・。

「ぶった斬るのみ！！」

　シュンと振り抜き、上段突進型に構え、再びトロールへ矢のように駆ける。

　同時に隊員達から飛ばされた刃物が風を斬った。

「ブブブブブ！！」

　トロールはニタニタとそれを見ている。

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