助力

肥満王

　風を斬って向かう小刃群はしかしトロールのでっぷりとした身体に勢いを失い、さして傷つける事も

無く安い音と共に床にバラバラと散ばってしまった。

「でぶ魔人がッ！！」

　ギルガは構わず突進する。

「ブオオオオオッ！！」

　しかし振り払われた棍棒で跳ね除けられ、そのまま剛撃で壁まで吹き飛ばれてしまった。

「ぐふッ！？」

　肋骨がギシギシと軋む。

「隊長！」

　隊員の一人が目に怒りを宿らせて、愛用の小太刀を手にトロールへ駆ける。

「ブオオオオ！！」

「ぐはあッ！！？」

　だがその隊員も小太刀ごとへし折られ、壁へと弾き飛ばされた。釘が打ち付けられたように、そのま

ま壁へとめり込む。

「こいつはなかなかきついな・・・くッ」

　ギルガは何とか立ち上がり、隊員達に迂闊に手を出すなと命じる。

　その肉体で遠距離攻撃を無効にし、馬鹿力で敵を吹き飛ばす。対集団戦用に作られただけあって、実

によく出来ている。際立った能力は無いものの、その分これと言った弱点も見当たらない。

「やはり、正攻法しかあるまい」

　ギリギリと歯を噛み締め。両手で長刀を握る。

　光刃が使えれば、不意討ちも可能なのだが・・・。長刀の輝きは未だ戻らず、それ以前に使い方もは

っきりとは解っていない。

「つああああッ！！」

　気合を乗せて足を踏み出し、そのままの勢いでトロールへ切り込む。

「ブオオオオオッ！！」

「ぬおッ！」

　暴風のような棍棒をしゃがんで辛うじてかわし、走った勢いを利用してトロールの腹元へと滑り込む。

「うおおおッ！！」

　そして長刀を股下から思いっきり振り上げた。

「ブアオオオッ」

　爆音のような突風を生み出し、打ち下ろされた棍棒と衝突。刀身を下ろして棍棒をさばき、耳元を通

る剛風を肌で感じ冷汗を感じながらも、震える手をしっかりと握って再度振り上げる。

「くおおおおおおッ！！」　

　ずぶッとトロールの肉体に沈み込んだ刃はぶちぶちと嫌な音を立てて、それでも少しずつ食い込んで

裂いて行く。ゴムを殴るような妙な感触を刃越しに感じながら。

「ブオアアアアアアッ！！！？？」

　どす緑の体液が迸る。しかしその肉体に絡みとられたかのように、刃がほとんど動かなくなってしま

った。力を込めれば少しずつ裂くものの、まるでゴムを引っ張っているように気を抜けば逆に刀を取ら

れてしまいそうだ。

「くッ、腹を狙ったのは失敗か」

「ブオオオオオッ！！」

　そして怒りに目を紅く爛々と燃やしながら、トロールは棍棒を振り上げる。

「しまった！」

　ニタニタと笑う醜い顔。こんなものが最後の景色になるのか。それはそう思わず死を覚悟した瞬間だ

った。

「グボッ！！？？」

　その醜い顔から刃が飛び出したのだ。まるで舌でも出すような感じで口から槍先が飛び出している。

「つあああッ！」

　我に返ったギルガは長刀を引き抜き、グッと飛び上がり、そのままトロールの首を真一文字に刎ねた。

ピュッと言う風の抜けたような音と共に、醜い首が跳ね落ちる。そして頭無し首から体液を吹き上げな

がら、地鳴りのような音を立てて巨人は地面に倒れ込んだ。

　その先に槍を突き出したままのポーズのミルドが居た。

「ミルド！」

「私も一応隊長になりましたから」

　まだ痛みが残る表情で、それでもにこりと微笑んだミルドに、ギルガは静かに笑みを返した。自分の

子の成長に初めて気付いた親の如き心境で、少し悔しいような嬉しいようなそんな思いを味わいながら。

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