不安定な理に

演算限界

　振るわれる、薙ぎ倒される、貫かれる。

　オーディンはその名に恥じない槍さばきで、無限の攻撃バリエーションを持って、正に神の如き抗え

ぬ死を人間に与えていく。

　ユグドラシル前の死闘での傷も祟り、すでに１０名居た精鋭も半数を切ってしまった。辺りには血だ

まりが無数に出来、悲鳴がそれに覆い被さる。

「くそおおおおおッ！！」

　ギルガが怒りに任せて一撃を振るうも、いとも簡単に受け流され、流れるように嫌になるほど受けて

きた蹴りを喰らう。おそらく故意に生かされているのだろう。己の無力を思い知らせる為なのか、それ

とも弱者から滅していくと言う兵法の常法に則ってかは解らないが。

「はああああッ！！」

　少しはまともに闘えているのはスピードのあるミルドくらいなものかも知れない。ただそれも、赤子

と達人程の差があるのだが。

　そのミルドの槍を難無く避け、オーディンは一人又一人と確実に血祭りに上げていく。身体のサイズ

も影響しているのだろう、一刀両断一撃必殺とはいかないが、確実に戦力を奪う攻撃を繰り返す。

　機械のように精密で、予知でもするかのような機敏な動き。無数の銃弾すら平静に避けるその様は、

脅威を通り越して畏怖の感情を起こさせる。

「全散開！！」

「りょ、了解！！」

　４人まで減った隊員達を下がらせ、囲むようにオーディンを牽制する。

「フハハハハ、臆したか人間め！それではヴァルハラに呼ぶ訳にはいかんな」

　嘲笑が静まった室内に響き渡る。

「せめて死す前に、この勇槍ヴァルキリーの前に欠片の勇気を示してみよ」

　オーディンは手にした槍を風車のように回転させながら、距離を詰めるでも無く、誘うように笑って

いる。その槍で首を跳ね飛ばされている絵が脳裏に浮かぶ。首に張り付いたままの汗がやけに気になる。

「けっ、デュラハンといい死神から出てきてくれるとはやけに親切じゃねえか！」

　ギルガはそれらを飲み込み吐き出すように心底から吠えた。

「クハハ、それも貴様等人間が創ったものよ。文句があるならロキ博士に言う事だ、滅んでからな！」

　瞬間、オーディンの片腕が閃き、隊員の一人をその槍が貫いた。

「あぶばばば・・・」

　口から声ならぬ音を発しながら、思わずトリガーを握った銃から銃弾を撒き散らしてその隊員があっ

けなく床に転がる。

「脆い、脆いわ人間！」

　そしてオーディンの哄笑が響く。

　その時だった。倒れた隊員の銃が倒れた拍子に発射角が急激に変わり、オーディンへ向けて乱射され

る形になった。

「ぬッ！？」

　銃弾の一つが慌てて避けたオーディンの腕を確かに掠めたのだ。そして嘲笑一辺倒であった表情に初

めて狼狽の色が一瞬だけだが浮かんだ。

「人間がァ！！」

　紅い目を爛々と燃やし、その隊員の骸へ跳び、頭蓋を一撃の下に叩き潰した。次いで腹ただしげに銃

機を蹴り潰す。

　そしてこちらに紅い目を向け。

「さっさと始末してくれる！」

　骸から抜き放った槍を手に、嘲りと怒りの入り混じった表情を浮かべた。

　その形相に隊員達は思わず後退った。

　ミルドとギルガはそれを奮い起こすように得物を構え、静かに一歩踏み出す。

　絶望的な状況、しかしギルガには一つの打開策が浮かびつつあった。そう、たった一つだけの突破口

が。

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