戦外戦

欺きの使徒

　その道は細いが天井は思ったよりも高く、息苦しい感じはしなかった。ただ明かりが薄く、目印にな

るような物も無いので、一度迷ったら一生出られないような、そんな恐怖感も考えてしまう。

　それを煽るかのように道も入り組んでおり、分岐が到る所にある。

「ギル、どうしよう・・・引き返す？」

「いや、もう帰り道でも迷いそうだ。ともかくこのまま真っ直ぐ進んでみよう」

　二人は主道とも言うべき割と大きめの通路を左右に折れる事なく真っ直ぐに進んでいる。勿論、二人

がそう思っているだけ、と言う可能性も否定出来ないのだが・・・。

　ともかく一方向に進んでいけば端に出るだろうと、単純だがもっともな考えに従って歩を進めていた。

「これってぐるぐる回るようになってたり・・・しないよね？」

　レイが恐る恐るギルに問う。表情は少し青ざめている。それはギルも似たようなものであったが。

「さあな。そうなってたらどうしようもないが。こんな所に迷路を造る必要も無いだろうし、そう信じ

て進むしかないな」

「ギル・・・それを行き当たりばったりって言うんだよ」

　レイはがっくりと肩を落とす。

「レイ、なら他に方法は？」

「いや、それは無いけどさ」

「だったらこれしか無い」

　ギルはまるで道を知っているかのように、自信に満ちた（ように見える）歩調でずんずんと進んでい

る。確かにもう引き返せないだろう。

　それから数分程進んだだろうか、彼方から微かな物音と話し声らしき音が聴こえて来た。そして目前

には開けた広間のような空間が・・・。その空間にも何かしらの気配がする。

　二人はその場に蹲り、静かに様子を窺った。

「ギル、どうする・・・」

　音の方へ進むか、それとも広間の方へ行ってみるか。どちらにしてもキメラが居る危険性が否定出来

ないのが辛い。

「そうだな・・・・んッ？」

　突然その広間が明かりに包まれた。明らかに炎の揺らぐ光ではなく、人工的な機械の光だった。

「レイ・・・行こう」

「ああ、何だか知らないけど見過ごせないよね」

　そして二人は広間へ向けて、足音を忍ばせて近付いた。コツコツと音の響く構造なので、それも焼け

石に水かも知れないが、しないよりはマシだろう。

　近付いて行くと、はっきりと何者かの気配を感じ取れるようになってきた。軽い物音もしている。し

かし、キメラにしても何故こんな場所に・・・。

　入り口から頭だけ出して、中を覗き込む。

「！？」

　そこには無数のモニターがあり、研究所内のあらゆる場所が映し出されていた。入り口付近で奮闘し

ているリック、首なし剣士と闘うギルガ、巨人に必至で立ち向かう隊員達。そして薄暗い部屋で薄笑い

を洩らしている人間型のキメラ。

　そしてそのモニター群の前に座り、愉悦の声を洩らしている暗い影。幸いにもモニターに集中してい

るおかげで二人が見ている事にも気付いていない様子だ。

「あいつは・・確か」

　そうその暗い影には二人とも見覚えがあった。ミノタウロス、ベヒーモスを連れて来た張本人、何よ

りロンを攫った・・・そうそれはガーゴイルに違い無い。

「どうやら一体だな」

　ギルが何かを決断するように呟いた。

「うん、一体しかいないね」

　レイも深く頷く。

「行こう！」

　同時にそう行って、二人は室内へと駆け込んでいく。

「ン！？」

　振り向いたガーゴイルの紅い目が僅かに見開いているのが見えた。

　そして間髪入れず銃弾の噴き出る音が広間に響く。　

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