予想外への未警戒

誤

　波打つように散ばりながら、弾道が次々にガーゴイルへと突き刺さる。

　その度に身体が弾け揺れ、まるで不恰好なダンサーのようにガーゴイルの身体が踊る。逃げようと広

げた翼も無数の弾丸で貫かれ、穴だらけの無様なモノとなってしまった。

「人間め・・・グブッ」

　黒ずんだ血が全身から滴り落ち、表情が怒りのものへと変質していく。

「何故、人間がここに・・・・、こんな無様な姿を晒す事になるとは・・許さんぞ！！」

　穴だらけのガーゴイルが破れた翼をはためかせ、疾空するように床を滑り迫る。あまりある憎悪を噴

出しながら、自らの身体を慈しむ事無く。ただ速く。

「レイ、跳べ！！」

「う、うわあッ！！」

　二人は割れるように左右に跳び、辛うじてその突進を避けた。

　そして撃つ、撃つ、ただ撃ち続ける。

「ぐはあああああっ！！」

　ガーゴイルには更に無数の穴が空き、一つ一つから水芸でもしているかのように血が噴出している。

背後から撃たれた為に、最早その翼も原型が無い程に破壊されてしまったようだ。パタパタと半翼程の

残骸が揺れている。

「うわああああああッ！！！！」

「レイ！！」

「あれ！？」

　言われて目を開けると、弾が尽きたのかレイの銃器はカチカチとトリガーの音を立てるだけで、もう

一発も撃ち出て無かった。

「大丈夫か！撃ち止めだ、銃は捨てるぞ！」

「うん、ごめん、ギル」

　ギルとレイは銃器を投げ捨て、代わりに火の集落製の刀剣を抜き放った。レイが細身の長剣、ギルが

大ぶりな重剣。対照的だが、どちらの刃も鋭く光っている。

　レイは気合を入れなおすように片手で頬を張った。初めての二人だけの実戦に、頭が少しこんがらが

っていたようだ。ギルを見ていると、自分がつくづく戦士向きでは無いと思わされる。

「ん、どうかしたか、レイ」

「なんでもないよ。さあ、止めを刺しちゃおう！」

　二人はじりじりと近付きながらガーゴイルを睨みつける。もはや血みどろのその姿に力は感じないが、

それでも油断は出来ない。特にこのキメラにだけは。

「人間め・・・・こんな所で無様に死んでたまるか」

　ガーゴイルはゆっくりと歩み始めた。飛行能力を封じられ、その素早い動きを活かせなくなれば、最

早キメラとしての力量は無い。鋭いはずのその爪も自らの血でぬめり、穴だらけの足を這うように動か

す。

「こんな無様な・・・・無様な死に様で・・・」

　その言葉も血に塗れ、ゴボゴボとしか人間二人には聴こえなかった。

「レイ、行くぞ！！」

「うん！！」

　そして二本の刃が煌く。

「馬鹿な・・・こんな・・愚かしい・・・ぐほああああああああッ！！」

　両腕を斬り落とされ、胸を貫かれ、ガーゴイルは絶叫を上げてあっけなく事切れた。

「見て、ギル！ロンだよ！！」

　レイがガーゴイルの最後の嘆きも無視して、モニターを指差して叫んだ。例の人型のキメラが居たモ

ニターである。

　ギルが覗くと、確かにロンらしき人間が水槽のようなものに浮かんでいる。そしてそこにギルガ達が

いきなり現れるのが見えた。

「ギルガさん達も！」

　人型のキメラがガーゴイルを呼んでいる声が聴こえて来た。

「何だか解らないけど、どうにかしてあの部屋に行かなくちゃ！」

　レイが慌ててモニター下の機械群を見回す。

「何してるんだ、レイ！？」

「うん、ここが警備室か何かならきっと地図みたいなのもあるはずだよ。それを探そう。多分ここから

何処にでも行けるようになっているはずだから」

「なるほど、それであんなに通路が多かったのか」

　ギルも頷き、機械群はレイに任せ、自分は近辺を探し始めた。

　例のモニターの中ではすでに戦いが始まっている。　

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