張り詰める視線

防戦日和

　レジトは長老の指示を全員に伝え、自らは青年団を幾つかのグループに分け、森を巡回させる事にし

た。巡回は三交代制で、食料探索も兼ねる。巡回班にはこの集落で唯一キメラに効果がありそうな銃器

が与えられる。

　以前は猟銃として使われていただろう無骨な銃だが、威力と精度はそれなりに高い実用的な銃だ。た

だ、如何せんキメラ相手ではどれほどの効果があるのかは解らない。たまに狩りをする時には役に立つ

のだが。

「うーん、前のキャラバンの時にバズーカでも買っておけば良かったのにね」

「どこにそんな金があるんだ、レイ。俺達はキメラの動向が解ればそれでいいんだ、倒すまで考えなく

ていい」

「解ってるよ、ギル。ロンは目が良いんだからしっかり見てくれな」

「・・・ええ」

　現巡回班はギル、レイ、ロンの三名。他にも２班が他の区域を巡回しているはずだ。時刻は昼過ぎ、

一番暑い時間帯だ。でも今の季節はそれが丁度良い気温に感じる。

　三人は果実を捩ったり、薬草を採取したりしながらゆっくりと進む。逃げる時間を稼ぐ為に、ある程

度の距離まで巡回しなければならないが、そう急げば良いと言うものでも無い。

「この緊張感って嫌いなんだよね・・・・」

　レイが額の汗を拭う、それはとても冷たい汗だったが。

「はは、お前でも緊張するんだな」

　そう言うギルの顔にも余裕があるようには見えない。

　ロンは静かに様子を窺っている。木々の合間から覗く景色を注意深く、何も見逃す事が無いように。

キメラの身体は自然と見比べると明らかに違和感があるので、視認し易いと言えばし易いのだが。

　それでも近付き過ぎれば命の保証が無い。せめてケルベロスの風上に居ない事を祈る。

「あッ！？」

「どうした、レイ！」

「いや、ごめん。風で叢が揺れただけだった・・・・」

「まったく、声を上げるのも危ないんだからな」

「ごめん、ギル」

　緊張感に押し潰されそうだ。キメラに遭遇する事もそう珍しい事では無いとは言え、この恐怖が和ら

ぐかと言えば、それはまた別の話だ。次の瞬間、いきなり炎に包まれるかも知れない。大丈夫だ大丈夫

だと自分に言い聞かせながら、やっと足が動くといった状態を続けるのは心臓に辛い。

　その時。

「あ・・・何か・・・また何かの・・・・」

「どうした、ロン？」

「あちらに・・・何かが・・・」

　ロンが指差す方をギルが覗くと。

「皆、伏せろッ」

　そして二人を無理矢理地面に押し倒す。

「何だよ、ギル！？」

「しッ！ヘルハウンドだ」

　ロンが指差した方に見えたのは、ケルベロスの小型版のようなキメラ・ヘルハウンドの姿だった。ケ

ルベロスと一緒に良く発見される為、ケルベロスの子ではないかとも言われている。その体躯は犬並な

がらも、牛や馬を引き摺り倒す程の力がある。　　

「ヘルハウンドなら、この銃でも・・・・」　

「止めろ、レイ。そんな事をすれば近くに居るはずのケルベロスに見付かるぞッ」

　銃を構えようとするレイをギルが低い声で叱咤する。この声に気付かないかと冷や冷やしながらも。　

「危ない！」

　突然二人は前傾になっていた身体を引き戻された。そしてタッチの差でそこを炎が通過する。

「・・・・・！？」

　次に二人が見たものは、蒼く燃え揺らぐような姿とそれに付いている赤く輝く双眸。

「グオオオオオオオオオオオン！！」

　そして辺りを劈くような獣の咆哮だった。

BACK・ EXIT・ NEXT