宿り観・光明

宿り観（光明）

　五助さんと村長さんは村はずれのお社へと向かいました。

「村長さま、わしゃああの方が何だか怖くて・・・」

「わしも怖いが・・・他に相談出来る方がおらんからのう・・。ともかくご機嫌を損ねないよう気を付

けてくれい」

「へえ、解りました」

　二人は黙って急ぎました。

「神主様、神主様」

「なんですか、騒々しい」

　何事かと神主さまが奥から出て参りました。

「実はこういう事がありまして・・・・」

　村長さんは経緯をかいつまんで説明されました。

「ほほう・・・、それはそれは。なかなかに興味深いですね・・。多分それは・・・・ううむ」

「神主様、どうかお力をお貸しください」

「ええ、村長のお頼みとあらば出向かない訳にはいきますまい」

　神主さまはしばし御待ちをと仰るとするすると奥へ消えました。

「村長さま・・・・、わしゃあやっぱり怖いです・・。あの方も・・・」

「五助さん、滅多な事を言うものではないよ」

　二人はそれきり黙って待っておりました。

「さあ、行きましょう」

　何やら得体の知れない黒尽くめに着替えた神主さまを先頭に喜兵衛さんの家へと向かわれました。

　そこには村の衆も集まっておりました。

「おお、神主様じゃあ。もう大丈夫じゃ」

「皆様はこちらで御待ちください。喜兵衛さん、私だけ入れて下さい」

「でも、これが・・・・」

「大丈夫です。それは当人以外には害の無いものです」

　しばらくすると扉がするすると開きました。

「では失礼して」

　神主さまはするりと中に入りました。

「神主さまぁ・・・わしは、わしは大丈夫なんじゃろか。もう怖くて怖くて、飯も喉を通らんのですわ

い・・」

　喜兵衛さんは見るからにやつれておりました。

「これはただ貴方の行動を見ておるだけですよ。ほほう、これですね。私も見るのは初めてだ。実に興

味深い・・・」

「神主さまぁ、早く何とかしてくだせぇ」

　喜兵衛さんは涙ぐんでおります。

「そうですか。ではこれを」

　神主さんは手鏡を喜兵衛さんに渡しました。

「これでこの眼を映しなさい」

　喜兵衛さんはおそるおそる鏡を目の上に持っていきました。

　するとそれまでじぃーっと喜兵衛さんをぎょろりぎょろりと見ていた眼がくっきりと見開かれて動か

なくなりました。

　神主さまは聞き慣れない言葉をぶつぶつと唱えております。

「か、神主さまぁ。わしゃあどうすれば・・・」

「いいからそのままにしていなさい」

　神主さまがエイと念じて眼と鏡の間を手刀で切ると、と見開かれた眼がゆっくりと閉じて消えていき

ました。

「おおっ、消えた消えたッ！神主さま、ありがとうごぜえやす」

「いえ、私も良いものを見させていただきました」

　そう言うと神主さまは手鏡を受け取り戸を開けてするりと抜け、そのまま夜に溶けるようにするする

と帰って行かれました。

「喜兵衛どん、大丈夫かあ・・」

「五助どん、もう大丈夫じゃ。これでまた明日から働ける」

「ほうかぁ。良かった良かったのう」

　村人達は手に手を取って喜びました。

　それからその晩は祝いの宴が夜通し続きました。　

　この村に久しぶりに笑い声が響きました。

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