やっぱり為さないかも

不本意

　一夜明け、準備も万端な僕はしかし少し心揺らいでいた。

　気になるのはリラの、つまりあのボロ衣人の事。何を探しているのか、詳しい事は僕には理解出来ず。

そしてあれ以来出会ってすらいないけれど。だからこそ何となく気になる。

　彼女はあれからもずっとここで探して居たのだろうか。それとも、もう他に移動したのだろうか。

　まあ、今日此処に到ってはもう進むしか無い。

　僕は後ろ髪ひかれながらも、この寝床を後にした。遠出すると言っても、そう何ヶ月も留守にする訳

では無くて、長くて一週間と言う所だろうけど。それでも一日以上離れたことの無い家から離れるのは

やっぱり少し寂しくもある。

「行って来ます」

　僕は一つお辞儀をしてから、テクテクと歩き出す。

　後ろに遠のいて行く家が、なんだか少し哀しかった気がした。

　待ち合わせの場所まではまだ少し距離がある。

　別に急ぐ程切羽詰った時間に家を出た訳でも無いので、ゆっくりとかみしめるように進む事にした。

周囲の見慣れた景色を心に焼き付けるようにゆっくりと。

　まあ、ここまでやるほどの事でも無いんだけどね。ただ、ひょっとすると二度と見れない景色かも知

れないから。

　そんな風に思っていると、少し心が震えた。やはり怖い、不安が足元からじりじりと登って来るよう

で、落ち着かない。

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

　息を吐くと目の前で土埃が一緒になって揺れていた。

　堀所に近い証だ、マスクをしないといけないな。

　襟元にしまっているマスクを起こし、装着した。少し息苦しいけど、健康の為には仕方が無い。掘り

起こした中にどんな病原菌がいるかも解らないしね。

　地下入居当初は、病気になるのはそれは少なかったけれど。肺炎になる人は多かったらしい、何しろ

空調悪いから余計にね。教訓は大事にしないと勿体無いだろ。

「ああ、待ち焦がれていたよ、君を」

「レット、ビッコルさんは？」

「私だけだよ」

　そうして何気に抱き付こうとするレットを足蹴にし、近くの岩に座った。休憩の為だか、それとも始

末するのが面倒なのか、そこら中にこんな岩がごろごろしている。長く座っていると、尻が痛くなるの

が難点だ。

「遅いなあ、ビッコルさんって時間にはうるさい人なのに」

　しばらくぼうっとしていると、やっと何処からか足音が近付き、次いで人影がうっすらと見え始めた。

レットはぐったりと寝転んでいるままだ。

「ロッコル？」

「ああ、久しぶり」

　現れたのはビッコルさんの息子、その名もロッコルその人だった。

「何でお前が？」

「ああ、オヤジがぎっくり腰で俺が代わり。と言っても仮病で押し付けられた気もする」

　ビッコルさん・・・・昨日の言葉は・・・・。

「あのジジイ・・・・」

　僕はふつふつと込み上げる確かなモノを感じていました。

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