出会いか再会か

不可思議な日々

　食料危機を感じながらも、とにかく僕らは先へと進む事にした。もう、今更引き返しても仕方が無い

し、その気も無かったからだ。使命を果たさなければ、僕らはいずれ飢え死にを迎えてしまう。

　幸い、レットの興味が僕とロッコルに半々で行き渡っている為に、僕に少しだけだが余裕が生まれて

いた。逆にロッコルの余裕が大分消えたと思うので、差し引きマイナスだったのかも知れないが。とも

かくも、僕は今までよりも注意深く進む事が出来るのだった。

「ああ、マイスィート・・・・。君の筋肉が躍動するリズムは・・・私のハートのリズムと一緒なんだ

よ・・・・。何て野性的な美しさなんだろう・・・」

「うわッ、触るなレット！！」

「またまた、照れなくても良いんだよマイスィート・・・」

「うぎゃああああああッ！！」

　取り合えず、ロッコルの為に祈ってやる事にした。人生山あり谷ありだと言っても、この降ってわい

た災難は可哀想過ぎる。

「ああ、ごめんよマイハニー。移ろい易い私の心と、この無限大の美貌を許しておくれ・・・。でも、

またすぐに愛を注ぎに行くからね、私の愛しい君よ・・・」

　レットはすっかり酔って、勘違い極まりない状態らしい。こういう時の人間には関わらない方が賢明

と言うもの。そして僕は再びロッコルの幸福を祈った。それからレットがもう二度と僕に興味を示す事

が無いように、と。

「しかし、何の変化も無いなあ・・・」

　思わずぼやきが口から出る程に、ありきたりの光景が相変わらず広がっていた。

　複雑に折れ曲がった洞路、湿った洞肌、くぐもった空気。そんな取り止めも無いものばかりだ。本当

にいづれは何処かへと辿り着けるのだろうか。

　不安が心を過ぎる音が聴こえた。

「って、音？？」

　思わず自問自答してみる。

　確かに何かしらの音が聴こえた。しかしそれが心の音な訳が無い、確かに耳から入って来た音なのだ

から。大体、不安に音なんてあるものか。

「あるものか！！？」

「どうしたんだい、マイハニー？」

「いや、何でも無い」

　思わずまたしても口に出してしまい、レットの奴に不思議がられてしまった。悪釜に不思議がられる

なんて屈辱だった。そしてロッコルには僕の叫びにすら気付く余裕は無いらしく、必至にレットを振り

払っている。僕は再び二割方はロッコルの為に祈った。

「・・・・・・」

　そして静かに耳を澄ます。全身を耳に代えるように、深く静かに神経をそこへと集中させ、そして音

を細かく選別する。レットの声、ロッコルの嘆き、空気の動く気配、それらが洞内に反響する音。そん

なものを一つ一つ外していくと、後に何処か懐かしいような音が、ただ一つ耳に残っていた。

　そう、何処かで聴いた。あの黒びかり虫とは違う、あの独特のシャカシャカ音を。

「あ、あれはまさか・・・・」

　洞路の先に、見覚えのあるボロ衣人が居たのだ。

　ボロ衣人は、あの時のようにシャカシャカと律動している。

　僕は思わずそちらへと駆け出した。まるでその音に誘われているような感覚を感じて。

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