小同大異

ボロ衣人の洗礼

　僕がボロ衣人の方へ駆け出すと、当然のようにそのボロ衣人もシャカシャカをこちらから見て後退し

て行く。しかもあの時のように、頭はこちら側なので、文字通り後退しているのだ。そして、やはり速

い。おそるべきスピードでまるで追い付けない。

　自分がこの探索行で弱っている所為もあるかも知れないが、ボロ衣人の方があの時よりも確実に速く

なっているような気がする。

　そしてどれくらいの距離を突き進んだだろうか。すでにレットとロッコルの気配も感じず、目印も付

けてないので、このボロ衣人に引き離されては野垂れ死にの運命が待ち構えている所まで事態は逼迫し

たものへとなっていた。

　これはヤバイ、いややば過ぎると今更ながらに感じた僕は。

「おーい、ちょっと待って！！」

　試しに荒い息混じりに、必至に前方のボロ衣人へと声をかけてみた。

　もちろん、そんな事で待つ訳が無い事は解っていたけど、藁にも縋る思いだったのだ。

　すると、驚いた事に大方の予想を反して。

「何か用？」

　と言って、呆気ないほど簡単にボロ衣人が立ち止まったではないか。

「え？」

　思わず僕は、疑問を疑問で返すと言う、これ以上無い間抜けな声を発してしまっていた。

「ええ？？」

　当然ボロ衣人は首を傾げる。その頃にはようやく僕はゆっくりと立ち止まり、荒い呼吸を繰り返しな

がらも、何とか落ち着きを取り戻せていた。

　そして何とか言葉を搾り出す。

「用って、そっちは何で逃げてるの？」

「何でって、逃げるのが当たり前じゃないかい。何を言ってるんだ、君は」

「ええッ？」

「まったく、これだからあちらの人は困ったもんだよ」

　そしていつの間にかボロ衣人に説教を受けている僕がいた。声の調子からして、子供か女の子だろう

けど、どうやらリルでは無いようだ。僕から見ればまったく同じ格好で、外見からは区別がつかないけ

れど。少なくともリルはこんなにきっつくは無かった。

「だから、解ってるのかい。ボクを逃げさせてしまうなんて、少しは自分の行動に恥を知りなさいな、

恥を」

「すんません」

　ただ一つ解った事は、とにかくここは謝り倒すしか無いって事だった。しかしそう思って、いずれは

許しが出るだろうと何度も謝っているのに、何故か一向にその気配が無かった。ボロ衣人は僕が謝る度

に、何度も何度も馬鹿丁寧に同じ説教を繰り返してくれる。

　いい加減、それに痺れを切らした僕は。

「解りましたから、そう何度も同じ事を言わなくても良いでしょう！」

　と、そんな事を少し強い語調で言ってしまった。

　慌てて口をつぐんだが、後悔した時にはすでに遅く。全ては言葉と化して、口から吐き出された後だ

った。これでまた説教が繰り返されるのかと、自分を自ら憐れんだその時。しかしボロ衣人から出たの

は、またしても予想に反したものだった。

「解ってたの？だったらもっと早くにそう言いなさいな。まったく、自己主張の出来ない駄目人だね」

　それから別の事でまたしても散々説教受けた後。

「それで、こんなとこで何してんの？」

　とこれも今更ながらに問われ、僕はぽつぽつとここに到るまでの原因と心情をボロ衣人に語ったのだ

った。

　そして改めて辺りを見回した時、僕は自分が完全に迷子になってしまった事を悟って途方に暮れたの

でした。

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