別天地

迷い人異郷に到る

　ボロ衣人は今や迷い人となった僕を呆れたように、ボロフードから覗く目でしばらく見ていたが。そ

れから諦めたようにこう僕に告げた。

「しょうがないね、じゃあボクに付いて来なさいな」

　そして僕を無視したかのようにシャカシャカと軽快なスピードで駆けて行く。

　僕は慌ててその後を追った。何しろ、今の僕には他に頼るものが何も無いんだ。藁をも縋るって言う

気持ちを始めて体験した。また一つ賢くなったと思う。

　それから僕は必至に見知らぬ洞路を駆けに駆けた。

　過ぎ去って行く景色はさほど変わらないのが、疲れを増させるような気もしたけど。でも、それどこ

ろでは無かった。ボロ衣人はやはり速い。

「ち、ちょっと待ってくれない」

　でも僕がこれも必至にそう言っても。

「何言ってるんだい。そんな身体だと役に立たないよ。この際、これで鍛えなさいな」

　等と言って、まったくボロ衣人は取り合ってくれない。それどころか、ますます加速して行くように

感じた。これは多分、僕の身体が疲れきっている所為だとは思うけど。

　諦めた僕は、とにかく必至に駆け、そしてボロ衣人を見失わない事だけを考えた。

　四肢が酷使に悲鳴を上げ、肺と喉が限界を告げる。それでも立ち止まる事は許されず、とうとう頭ま

でぼーっとして来た。夢でも見ているみたいに、視界が朧に変わり。少しずつ感覚が失せて行く。もう

自分が何をやっているのかすら解らなくなるほどに。

　ただ、自分の足音とシャカシャカ音だけが、まるで別の存在であるかのような妙な存在感を持って、

絶え間なく耳から入って来ていた。

　それからどれくらい走ったのだろう。もう意識すらかき消そうなそんな時だった、先を行くボロ衣人

が止まってくれたのは。

「・・・・・・・・」

　僕はその場に崩れ落ち、ただ荒い息だけを吐いた。もう声すら出せない。

「へえ、少しは根性あるみたい。解る？ここがボク達の村だよ」

「・・・む、村・・・？？」

　掠れそうな程に滲んでいた視界の中に、そう言えば何かしらの建物だか良く解らない物の姿がちらほ

ら見える気がする。

　目までおかしくなったかと慌てて擦ってみると、視界を滲ませていたのはどうやら汗の所為だったよ

うだ。擦った手から雫が飛び、何だか眼がすっきりしたような気がする。

　荒い息をようやく整え、改めて覚めた目で景色を覗いてみた。

「ふへーーー？」

　そこはやけに明るい空間が広がり、その中にまばらに建物らしき物が点在していた。その建物はドー

ム状で、鉄骨と言うよりは岩か泥土を固めたような質感に思えた。丸っこい物は好きなので、中々面白

い景色だった。

「じゃあ、行くよ」

　ボロ衣人はそこからはゆっくりと歩き始めた。落ち着くまで僕を待ってくれてたみたいで、案外優し

い人なのかも知れない。何だかんだ言っても、僕を助けてくれた事だし。

　僕も後をゆっくりと追った。

　何だかここの光は不思議と暖かい気がするのは何故だろう。と、こんな風に考えながら。

BACK・ EXIT・ NEXT