ボロ衣人の食卓

至高の一品

　ボロ衣人の村に着いた僕は、案内してくれたボロ衣人の住居にそのまま連れて行かれる事になった。

それでもボロ衣人は嫌な顔一つしなかったのは、お客さんが訪れるのが珍しかったからかも知れない。

少なくともこの地は、頻繁に人が訪れるとは思えない。

　そして今僕は、石椅子に座って暖かいスープをご馳走になっていた。

「美味い！」

「ふーん、でも別に有り触れたスープだよ。あんた今まで、余程酷い食生活だったんだね」

　そう、そのスープはとてもとても美味しかったのだ。何しろ料理らしい料理で、味もしっかりあるの

だから。

　しかし、素直にそう言ったのに。ボロ衣人の反応は真に素っ気無いものだった。確かに僕の食生活が

最悪だったのだけれど。でも、人にそうはっきり言われるとなると、やはり釈然としないものを感じる。

「・・・・・・・」

　だから無言で僕がひたすらに食べつづけると、ボロ衣人も只ひたすらに無言だった。

　皮肉めいた事を言われないのはありがたいけど、これはこれで非常にやり難いものがある。しかもボ

ロ衣人は他にする事も無いのか、じっとこちらにそのフードの奥の目を向けているのだ。

「あのー・・・・・」

「何？」

「非常にやりずらいのですけども・・・・」

「何が？」

「いえ、何でもありません、ごめんなさい」

　その状況を打開すべく勇気を振り絞っては見たけれど、さしたる効果もあげられない。僕は少し自分

が情けなかった。だけどフード越しに潜む目は少し怖い。何を考えているのか、もうさっぱりだから。

「えーと、ごちそうさまでした」

　ともかく僕は初めての料理に舌鼓を打ち、これには本当に感謝を込めて手を合わせた。本当に美味か

った。例え僕の基準がとても低くとも、これは心から美味いと思ったんだ。

　ただ、何を言ってもボロ衣人はマイペースだったけれど。

「それで？」

「それでとは？」

「だからこれからあんたはどうするのよ」

「ああ、そう言う事。・・・・・んー、どうしようかなあ・・・」

　そう言われて、改めて現状を考えて見るけど、そうそう上手く何かが浮かんでくる訳も無い。だいた

い何がどうなったのかすらも良く解らない。僕はただこのボロ衣人を追いかけただけなのだから。

　そう言えば、レットとロッコルは大丈夫だろうか・・・・。

「えーと、んーと、あーと」

　ボロ衣人をボロ衣人と呼ぶのも失礼な感じだし、かと言って指差すのも失礼だし・・・、とまごまご

していると、それでも察してくれたらしく。

「ああ、ボクはリム」

「リムか・・・ちょっと紛らわしいかも・・・」

「何？」

「いえ、何でも無いです」

　ボロ衣人って外見と言うか服装だけで無く、名前まで似ているのかな。そうなるとしっかり名前を聞

かないと混乱してしまうかも知れない。

「えーと、リム。僕が居たとこまで戻れるかな？」

「無理、忘れた」

「え、この村までは戻れたのに？」

「そりゃ、村には戻れるわよ」

　訳が解らないけど、僕の側の常識は無視した方が良いみたいだし。

「じゃあ、少しこの辺りを観てきても良いかな？」

「別に良いわよ」

　帰リ道が解らないとすると、もう後は現状をなるべく詳しく把握するしかない。

　僕はリムの許しを得て、外へと向かった。

　何故かリムも付いて来たが、僕にそれを断る理由もその権限も無かった。　

BACK・ EXIT・ NEXT