果たして誰が人なのか

秘密の行商・・・人？

　その日は何故かもう真昼のはずなのに薄暗かった。リムが言うには、こう言う日も結構あるのだとか。

多分、光の調子が悪いのだろうと彼女は言っていたが、結局は詳しい事は解らない。

　彼女の話だと今日、件の行商人が来るらしい。でも何時来るかははっきりとは解らないらしい。ただ

来ると言うのは解るらしい。

　僕には解らない。だから彼女の言う通り待つしか無い。そして、朝からずっと待っている。もういい

加減に疲れ果てた。

「ねえ、家で待ってたらいけないのかな」

「駄目」

「なんで？」

「来たのが解らないから」

「なるほそ」

　だだっ広い空間に二人、ただ寂しく立ち尽くしている。他に何をするでも無く、気の紛れそうなモノ

があるでも無く。話題があってもリムとの会話は数回で終るので、逆に気まずさをアピールするだけに

終ってしまう。だから本当に、今僕は手持ち無沙汰だった。足も痛い。

「ねえ、他の人とかはいないの。家はまだいっぱいあるのに」

　見回してみる。誰も居ない。

　行商と言うのだから、他に人が出てきても良い筈なのに、僕ら以外には誰一人として居なかった。ま

あ住居もいっぱいと言う程も無いのだけど。

「今日は居ないのさ。今日はボクの番だから」

「なるほそ」

　順番・・・・、ここの人達は意外と礼儀正しいらしい。ただ、何故に行商への順番があるのか、それ

に意味があるのかも。そう、やはり何も僕には解らなかった。

　だから待つしか無い。待つのは退屈だ。やる事は無い。でも退屈だ。

　そんな自問自答を何度繰り返しただろうか。気がつくと景色が更に薄暗さを増して行っているように

思える。僕らはこのまま夜を迎えるのだろうか・・・・。

「・・・・本当に来るの？」

「来るのさ」

　そしてあっさりと夜を迎えた。行商人はまだ来ない。

　本当に来るのだろうか？大体、彼女には来ると言うあの強大な自信を支える何かがあると言うのだろ

うか・・・・。

「いやあ、遅くなったがニー」

　そんな時だった。妙な発音の声らしきモノが聴こえ、ずんぐりむっくりとした何かが現れたのは。

　それは突然だった。そう言うしか無く、他に言いようも無い。とにかく突然に、そして当たり前にそ

こに居たのだった。

　なるほど、理屈は解らないけれど。これだとここで待つしか方法は無いと僕も思う。訳が解らないけ

ど。

「今日はあんさんの番だったがニー。じゃあ、これがお品だがニー。無理強いは良くないだがニー」

　ずんぐりむっくりは背中に背負っていたずんぐりとしたリュックを丸ごとリムへと放り渡した。彼？

の身長はリムの約半分で、横幅は約四倍。彼？もフードで頭？を覆い、顔も表情も解らず。ある意味、

彼？自体もリュックなので、パッと見ではどちらがリュックかも解らない。

　ずんぐりむっくりはケキョケキョと奇声を上げ、リムと談笑をしている。おそらく笑い声なんだろう。

しばらくそうして話した後。

「では帰るだがニー。毎度ありだがニー」

　そう言ったかと思うと、これまた突然居なくなってしまった。

「帰るよ」

　リムは何事も無かったかのように歩き始める。

「あれ・・・・何？」

「行商人」

「もっと詳しく」

「知らない」

　リムは呆然とする僕を後目に、スタスタと軽快に家へと入って行ってしまった。

　と言う訳で、行商人から情報を得るぞ作戦は、会話に入り込む事すら出来ずに失敗を遂げたのであっ

た。僕が泣きながらリム宅へ走り帰ったのは、辺りがとっぷりと暗くなった頃だった。

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