出会いの旋律

零れ落ちた大地

　ふと疑問に思った事がある。折角だから僕は素直に聞いてみる事にした。

「今日はシャカらないの？」

「ええ、普通に歩くの」

　彼女は関心無さそうに振り向きもせず、そう答えた。その身に纏った黒マントだけがゆらゆらと揺れ、

溢れ来る光を吸い込むように遮っている。全身をすっぽり覆うその黒マントには何の表情も見えず、彼

女からも何も読み取れない。

　僕は諦めてそのまま素直に付き従った。つまりは黙って歩き続けたのだ。

　光はもうすぐそこまで来ている。いや、僕らが来たのだけど、気持ちが逸るのには変わらない。ある

一つの、そこが目的地だと。僕はそう感じているからだ。

　そして僕らは閃光のカーテンを潜った。

「うわッ！？」

　目に飛び込んで来た光は、優しいままだったが。それでもあまりの強さに目が眩んでしまう。照明を

間近で見たような、そんな煌く光だった。

「・・・貴方はすぐ慣れる・・・大丈夫・・」

　リルの言葉に不思議と落ち着きを取り戻した僕は、何度か目を瞬かせてから、それからゆっくりと両

目を開いた。

　瞼が上がる毎に少しずつ緑が両の目に差し込んでくる。とても鮮やかで、目に馴染む緑。まるでそれ

を見る為にこの目があるような。そんな、自然な緑。

　次に土の色、複雑で、でも不思議と調和しているそんな色。

「・・・・ほはあ・・・」

　土から何かが生えていた。苔に似ているけど、色も大きさもまったく違う。そしてとてもとても、何

かが懐かしい。その緑達は光にさらされ、目一杯に溢れかえっていた。

　その光景に暫し目を奪われ。しかしそれ以上の好奇心で僕はリルに問う。

「これは・・・？」

　その時の僕はあんぐりと口を開けた間抜け面だったと思う。それでもリルは、相変わらずに答えてく

れた。

「・・・野菜」

「えッ！！まさか・・・これが！！？」

「・・・ええ、野菜」

　改めて食い入るように緑を見た。必至に見た。彼女が嘘を言うはずも、その必要も無い。とすれば、

これが噂の野菜・・・・。生まれて始めて見た・・・・何て緑なんだろう。そして、何て輝いているの

だろう。まるで太陽から零れ落ちて来たみたいだ。

「これ、食べれる？」

「ええ」

「本当に！？」

「ええ」

　素晴らしい・・・。そこには苔のような暗がりで萎れたモノでは無く。瑞々しい命が在った。

　皆、これを見たら何て言うのだろう。

「あッ！？」

　そこで僕は一つ気が付く。そう、野菜には太陽、太陽には空が必要なはずだった。僕が地上を知る人

から聞いた話では確かそうだったはずだ。という事は・・・・もしかして、もしかしたら！

「空が？」

「ええ、空はあそこ」

　リルの指差す上方へ視線を移す。そこにはぽっかりと穴が空いていた、僕らの空に穴が空いていた。

そしてそこから満ちる程に燦々と光が注ぎ落ちていた。そしてその光の向こうに。

「・・・・・・・・・・」

　生まれて初めて見る本当の空はとても澄んで・・・・目が覚めるくらいに、とても、ただとても蒼か

った。僕の身体が吸い込まれて、その一面に映し出されるくらいに。

BACK・ EXIT・ NEXT