刺激と喜劇

晴天は己が上にて

　遥か彼方まで透き通っている。どこまでも蒼く、どこまでも澄んで。

　ちらほらと不思議な白いふあふわが浮かんでは流れて行く。そのふあふわは形を常に変え、まるで人

の生のように揺れ流れて視界から消える。

　大穴から覗く真の空は、なるほど見てて飽きる事は無い。そしてとても心が休まる。

　そこから降り注ぐ光は暖かく、穏やかで。しかし力強く全てを照らす。

「・・・・・」

　僕はもうそれをただ見詰め続ける事しか出来なかった。

　蒼い空はなんて素晴らしいのだろう。そして何故、人間はあの地からこんな地底に退いたのか。

　幾つモノ不思議がゆっくりと脳内を旋回して、呆けたようにずっと上を見ていた。

「・・・今日は良い天気ね・・」

「天気？」

「ええ、空は常に変わるの」

「そっか・・・」

「そう」

　僕はゆっくりと視線を下ろした。眼前には緑が広がっている。これもまた素晴らしい。そこには光と

命が満ち満ちているのだから。

「リルはいつから此処に居たの」

「・・・・初めからずっと」

「そっか・・」

「そう」

　ゆったりとした時間が過ぎて行く。息をすると、満ち満ちたモノが身体に入って来るようで。とても、

心地良かった。ずっとこうしていたいような、今すぐ身体を動かしたいような、そんな気分でうきうき

している僕が居る。

「何であの空の下から僕らは逃げたのかな・・・」

「・・・色々あったの」

「色々かあ・・・」

「そう、色々」

　リルは何も答えてくれないのと同じだったけど。今の僕はそんな事どうでも良くなっていた。ただた

だ、心地良い流れがあった。空気が勝手に揺らめいている。それが頬に当る。ここに在る全てが心地良

かった。・・・・しかしなんだか。

「何だか頭がぼんやりと」

「・・・日射病ね」

「日射病？」

「ええ、日射病」

「日射病って何？」

「日に射られるの」

「射られるのか・・・」

「そう、射られるの」

　頭が更にぼーっとなり、感覚全てが遠のいて来た。視界が曇る。

「ん・・・・お・・・」

　そのまま視界にモザイクがかかり、くらくら揺れて僕はふっと落ちて行った。

　そして意識が途絶える。

　ただ不思議と、それでも暖かい光に包まれている自分を感じていた。

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