かさこそ虫

たまにはのんびり

　昨日、石炭が結構掘れた事もあり、今日は一つのんびりしてみる事にした。

　とは言っても、そんなにやる事も無い訳だけど。住居と言っても、寝る以外には使えないお粗末な物

だし、娯楽品なんてある訳も無く。ごろごろしてても地肌は硬く、身体が痛くなる。

「んー、どうって事無いなあ・・・」

　地上を知る昔人は、空には雲と言うモノが在って。万事変化を続け、見ているだけでも割りと面白み

のあるもんじゃったと、そんな風に言ってたけれど。

　ここの、僕の知る空はいつも黒光りしていて、万事変化せず。たまに地上で何かあったのか、地震え

が伝わってくるだけ。眺めても大して面白いもんじゃない。あるとすれば、たまに黒空を這う蜘蛛が語

呂合わせのようなおかしみを伝えるだけ。

「むー、やっぱり仕事行けば良かったかな・・」

　皆が仕事ばかりに精を出すのも、別に仕事好きと言う訳でも無く。それだけ生活に余裕が無いと言う

のもあるだろうけれど。一番の理由は、他にする事が無いからだと思う。

　ここには美味しいものがある訳でも無く、景色は何処へ行っても大して変わらないのだから。

　まあ、何処かで野菜なるものを作っている所があるとか何とか。珍しい、空の大穴から不思議な光が

降り注ぐ所に、わざわざ土を持って行って畑を作ったらしい。

　ここでは畑と言えば、苔畑かゴキブリ畑なのにな。

「でも、本当にあるのかな、そんな所・・・」

　空に穴が空いた所からして信じられない。そんなモノがあれば、昔人達がすでに大勢居て、ずっと空

を眺めているに違い無いじゃないか。

　そうなると、当たり前のようにいつも話題に上がって。そして実際行く人も居るに違い無い。

　でも、話を聞く限りは誰も詳しい事は知らないって。誰かから聞いた話だって、皆そう言う。

　本当にあるのなら、見えるのなら、一度だけでも本当の空と雲を眺めてみたいものだけど。

「んー、世の中やっぱり情報だからねえ・・・」

　いい加減身体が痛くなってきたので、むくりと反動を付けて起き上がると。前方に誰かが寝そべって

いる姿が見えた。

　ボロボロの服を着て、もそもそと這っている。どうやら何かを探しているらしい。

「・・・・・・・」

　こちらに気付いていない様子だったので、僕も脅かさないように黙っている事にした。

　その人はしゃかしゃかと虫のように割りと素早く移動を繰り返しながら、その辺をずっとぐるぐると

回っているようだ。時折、何かを摘み上げては空の照明に透かして見ている。

　そして、それをがっかりしたように放り投げ、またしゃかしゃか、しゃかしゃかと繰り返す。

「んーと、もしもし」

　何だか、ただ見ているのも退屈になってきたので、声をかけて見ると。

「！！！？？」

　その人はこっちが逆に吃驚して引く程に驚愕の表情を浮かべ、物凄い勢いで、しかも後ろ向きに這い

去って行ってしまった。いかにも秘密を知られたって感じで、僕は軽い罪悪感に摂り付かれる。

「んー、まあいいか、めんどくさ」

　だがすぐにそれも消え、改めてごろりと転がった。

　相変わらず、空は重苦しく黒い。

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