ふと心に張り付いて

好奇心

　ごろごろと一日を過ごし、やっぱりつまらなかったので仕事に行く事にした。

　しかし苔はいつも同じ味で、それでも程好く美味ければ飽きないのだけど。酷く不味いので、いい加

減うんざりしている。でも、かといって他に食べるものが無いので仕方が無い。

　せめて、味付けするものがあれば・・・。

「ビッコルさん、何か調味料は無いですかね？」

　丁度側で掘っている親方的ビッコルさんに聞いてみた。歳くってる分、何か知っているだろうと見込

んでの事だ。

「わしはそんな事知らないのよね」

　しかしビッコルさんは素っ気無くそう答えてくれた。考えてみれば、そんなものがあればとっくにビ

ッコルさんなら商売にしている気がする。

「昔はありふれてたもんだったけどね、調味料なんて。でもここに下りてからは、とんと見かけないの

よね。皆慌ててここに来たから、調味料とかまで持ってくる余裕なんて無かったのね」

「やっぱりそんなもんですかあ」

　ビッコルさんは酷く懐かしそうな顔をして、ごくりと生唾を飲み込んだ。その美味しそうな気配が凄

く羨ましかった。僕なんか苔の味しか知らないもんなあ・・・。

「そう言えば、どっかに野菜とか言う物を作っているって話、ビッコルさんも聞きました？」

「うん、聞いた聞いた。でもね、そう言うのは大抵眉唾もんなんだよね。あんな状態の時に、野菜の種

なんて気がつく人がいるとは思えないしねえ」

　そう言ってビッコルさんは、今度はとても難しい顔をした。僕はよく知らないけれど、やはりこっち

に下りてくる破目になった時って、色々と大変な事があったからなんだろうし。誰が好き好んで、こん

な穴蔵に住みたいなんて思うかって、僕も思うしね。

　なんかこう言う閉じられた空間に居ると、全ての物事が閉じられてしまうような気がする。何て言う

か、心に広がりが無いようなそんな感じが・・・。って、解んないけどね。

「そう言えば、今日はレットの奴が居ないですね」

　何だか静かだと思っていたけど、気付いてみたら奴が居ない所為だと気が付いた。

「うん、昨日ね、君が居なかったじゃない。だからね、今日は君の家とその近辺を、事細かに微細にわ

たって探索してみるって言ってたよ。彼も暇だよねえ」

「ええ、暇ッスねえ・・」

　ああ、今日仕事に来て良かった・・・・、本当に良かった。

　そう言えばレットって何気に堀率が良かったんだ。いつも良い物掘ってるし。何だろう、横の繋がり

と言うか、蛇の道は蛇なのかな。いや、言ってる僕も自分で訳が解らないけれど。

「でもビッコルさん、本当の空が見える場所ってのはありそうですよね」

「んー、そうだね。もっと上に近い所ならあるかもね。でも、あんまり遠出すると、まだ空の舗装が終

って無いから危ないよ」

「そうですよね・・・」

　ここは何でも自然洞を人工的に拡張したものだから、その自然洞の部分を行けばそんな所もあるかも

知れない。でも、やっぱりその未開の地は危険で。落盤だけで無く、何が居るか解らないのでとても危

険だと言われてる。

「まあ、夢のまた夢だよね。舗装工事も止まったままだし。でも、ここに来て間も無い頃は結構居たよ。

なんて言うんだろうね、そう旅立ってった人達が」

「えッ、本当ですか？」

「うん。でも、それっきり何も音沙汰無いね。わしもここに来て長いけどね、帰って来た人は見た事無

いよ。ん、そろそろ昼飯にしようか」

　気がつけば、照明が随分明るくなっていた。そしてお腹ではあの空っぽになったような感覚が、必至

に食べ物を催促している。

「はい、休憩にしましょう」

　しかし、結構掘ったのに何も出て来なかったな・・・。

　僕は疲れた身体を伸ばしてから、ビッコルさんと不味い昼食を摂った。ビッコルさんも苔派なのだ。　

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