物足りない日々

ボロボレ

　ビッコルさんと昼食を摂り、さてまた掘り始めようかと立ち上がりかけた時だった。どたどたと彼方

から振動音が聴こえ、彼奴が走って来たのは。

「おーい、大変だ！大変だよ！」

　悪釜が釜らしく派手な音を立ててやって来る。もういかにも釜な走り方であって、それ以外の何者も

主張しようが無いと言う姿で。

　僕はすっとビッコルさんの影に潜んだ。

「どうしたんだね、レット」

　ビッコルさんが親方的立場でそう尋ねる。とても面倒くさそうだ。

「あれ、愛しの君は？私のラブリーエンジェルは？」

　しかしレットはビッコルさんは無視して、キョロキョロと探し始める。おそらく僕を、だろう。

　僕は更にビッコルさんの親方的影に隠れた。

「ん、それよりどうしたんだね」

　ビッコルさんは改めてレットに問う。この人は親方的辛抱強さも持っておられるのだ。そして、やは

り如何にも面倒くさそうな様子だ。

「え、ああいえ。愛しの君の家に行って、それからずっと今まで覗いていたのですけど。そうすると、

何やらおかしな格好をしたのが、家の前を這いずり回っているのですよ。あれは古来から伝わる、スト

ーカーと言うのに違い無いと思って、心配した私は愛しい方にそれを伝える為に駆けて来たのです」

　そしてレットは更にキョロキョロとその長い髪を揺らしながら見回し。

「ああッ、早く伝えたいこの想い。情報は古くなる前に伝えるのが美しい・・・」

　そう言って、髪をふぁさッとなびかせ、何故かはにかんだ微笑を浮かべてからまたドタドタと去って

行きました。

「あの子もたいがいアレだよね」

　ビッコルさんはまったく興味の無さそうな顔で、お愛想のようにそう言いました。

「まあ、そうですね。あいつはアレですね」

「それより今日は何も掘れないね。何でだろう、わし、間違ってるかな」

　僕は何も答える事が出来ず、そしてしばしの時が流れました。

　その時思い浮かべていたのは、昨日見たボロボロの服を来たシャカシャカ人の事。どうやら、何かを

探していたみたいだけど。ひょっとすると今日も来ているのかも知れない。

　僕は何故だかその人が妙に気になっていた。主にそのシャカシャカさ加減に。

「ビッコルさん、場所変えましょうか」

「うん、そうだね」

　ともかく、掘れない事には詰まらないので。僕達は場所を変える事にした。

　かと言って、他に当てが在る訳でも無く。数ｍ横にスライドしただけなのだけど。

「じゃあ掘ろう」

　ビッコルさんは再び力を込めて堀り始める。

　堀って何が出るかはほとんど博打に近いので、いかに熟練の人と言えどもいつも儲けがあるとは限ら

無い。

　結局、今日は何も出て来なかった。

　それだと悔しいので、掘った時に出来た岩くずだけ持って帰る事にした。勿論、後で捨てるのだけど。

　ビッコルさんは損した感じ、損した感じとずっと呟いてた。お得さの無い人生なんていらない、と。　　

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