心地良く根付く

芽生え

　ボロ衣人まだ警戒の雰囲気をかもし出していたけど、それでもゆっくりと僕の手へとその手をさし伸

ばして来た。

　そして力を入れてゆっくりとボロ衣人を起き上がらせた。軽い、見るからに小柄な人だったけど、驚

く程軽くて勢い余って抱き付きそうになってしまった。

　それに驚いたボロ衣人は慌てて後ず去って行く。

「ご、ごめん。悪気は無かったんだ」

　僕が慌てて身振り手振りで言い訳すると、それでもボロ衣人は再びゆっくりとこちらに近付いて来た。

これではまるで、未知の生物とのファーストコンタクトみたいだ。ひょっとしたら今更地底人なのか？

「えーと、君は？そしてここで何をしてるの？」

　ゆっくりとそう言うと、ボロ衣人はしばらく不審そうな雰囲気をしていたけれど。それでもおずおず

とその口を開いた。

「私は・・・リル・・・。ずっと・・・探し物・・・してるの・・」

　まさかとは思ったけど、この声は正しく女の子。改めてみると、そのボロボロの衣の上から見ても、

その身体には優しい曲線と丸みが見えるようで。僕は少し落ち着かなくなってきた。

「・・・どうかした？」

「いや、何でも無いよ」

　深呼吸をして何とか気持ちを落ち着かせてみる。

　別に女が少ない訳でも、居ない訳でも無いんだけど。男と女の生活区域はまったく別で、会おうと思

って行かなければ偶然会う何て事は無く。それに皆自分の生活で大変で、そんな余裕がある人も少ない。

つまり何を言いたいかと言うと、僕はと言うよりも誰もがほとんど異性に免疫が無いって事ですよ。

「？？？」

　その子は不思議そうな顔で僕を見ている。免疫があるのだろうか。

「あー、えっと・・・。何を探してるのかな？」

「・・・・・・・」

　言いたく無いのか、言うのが難しいのか、その子はずっと黙っていた。

　んー、こう黙って静かだと何だかドキドキして居心地が悪い。これはきっと健康にも悪いだろうな。

何だかもやもやするし。

　それは彼女も同じだったのか、先に口を開いたのは彼女の方だった。

「・・・・種・・」

「種？」

「そう・・・種・・・種が芽吹くの・・・」

　問い返す僕にそっと答えを返すと、彼女はまたシャカシャカと彼方へ去って行った。

「種・・・芽吹く？？」

　聞き返す間も無く、そしてそんなゆとりも無く。僕はぼんやりとただ考えてた。

　種が芽吹くと言っても・・・・・。

「んー」

　何度見回してみても、何処にも何も見当たらない。いつもの何も無い空間が目の前に広がるだけ。そ

して疑問だけが浮かんでくる。

　何で彼女はこんなとこに居たのだろう。それに僕らは貧しいと言っても、服や水にはそう困らないよ

うにはされているはず。しかも女の子があんなボロボロで、汚れた姿で居るなんて。おそらく水浴びも

していないのだろう。本来は艶やかであるはずのあの髪も、少しくすんでいた。

「ほんとに地底人か何かか？？」

　僕の疑問はその日中消えず、そしてそれからもずっと心に残る事になった。

　まあ、今の世の中、皆どこか変なんだけど・・・。

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