蠢きの胎動

悪魔の呼び声

　レイウスは焦っていた。

「どうしたと言うんだ、これは・・・・」

　機体が意思を持つかのように勝手に動いている。自分の制御を離れて両の手に握られた刃を振り上げ、

そして振り下ろす。そしてその速度がどんどん上がり、その度に魔力をごっそり吸い取られていくよう

な気がする。

　機体からは黒い光が淡く浮き出て、コクピット内にまで及んでいる。触手のようなそれが身体に纏わ

り付いて、そこからも吸い取られているようだ。

「どうした、サタナキア・・・」

「・・・・・セイギョフノウ・・・・・セイギョフノウ・・・・」

　パネルの精霊も先ほどからぐったりとしたようにまるで動きが無い。

「暴走していると言うのか・・・」

　黒い機体ディアボロスは更にスピードとパワーを際限なく上げていく。まるでレイウスの魔力を喰い

尽すが如く。

　レイウスはもう意識を保っているのがやっとの状態だった。

　マリエルは焦りが恐怖に変わるのを感じていた。

「なんなの、なんなのこれは」

　対峙するディアボロスの振るう刃は一振り毎に威力を増し、その刀身の光も凶悪なまでに深く輝いて

いく。どんどんどんどん際限無く。

　そこにはもう人間味は無く。ただ刃が振るわれる。

　叩きつけるように、叫ぶように、壊れろ壊れろと延々に。

「もう、槍も持たない・・・・」

　機体と同じ特殊な金属で出来ている槍状ビームライフルに徐々に亀裂が生まれ始めている。

　気のせいかディアボロスの全身が黒く発光しているように感じた。

「くっ！」

　槍先をくっつけるようにして何度も光弾を打ち出す。

　しかし光弾はその度に表面に覆われた黒いモノに吸い込まれていく。飲み込まれているかのように。

そして更に剣戟は増していく。

「ああっ・・・」

　軽い音が響いて、手にした槍の槍先が砕け散った。一度崩れるともう抗おうとする気力も失ったかの

ように、一撃毎にバラバラに霧散していく。

　そのまま襲い来るのを止める術も無く、刃が機体に振るわれる。

　一撃一撃重い衝撃が全身に広がっていくようだった。何もかも打ち砕くかのような、身体の底から浮

き上がるかのような。

「いけないっ！」

　慌てて全身のバーニアを吹かし、後ろへと逃げる。

　警告音が絶えず鳴り響き、移動しているだけで機体が悲鳴を上げていた。

「もう駄目か・・・」

　銀の機体が退いて行くのが薄らいでいく意識の中で微かに見える。

「いったい何が・・・・・」

　レイウスは意識が遠のいていくのを感じていた。遥か向こうに自分が吸い込まれていくかのような、

目にモザイクがかかってそのままブラックアウトするかのような。

「私は・・・・・・終わってしまうのか・・・・？？？」

　ぐったりとシートに埋もれるのと同時に、ディアボロスも獲物を追おうと翼を広げた姿勢のまま停止

する。淡く全身を覆っていた光も消え、霊機類の作動音も静まる。

　ただ物足りなさそうに獲物を睨んでいた。　　　

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