轟く衝撃

風迅走破

　嵐の前の静けさ。

「何ていう移動性だ・・・・」

　レイウスは素直に感嘆せざるを得なかった。

　対峙する銀の機体はまるで人間であるかのように臨機応変に動く。あたかもパイロットの手足とリン

クしているかのような。正に機兵のコンセプトである動く鎧そのままに。

「つまりは操縦の腕では負けていると言う事かな。本当に厄介な相手だ・・・」

　マリエルも恐怖に近い驚きを感じていた。

「正に悪魔か化物だわ。こんな恐ろしい機体は見たこと無い」

　じりじりと槍先の角度を変えながら隙を窺う。黒い機体は独特の威圧感を発しながら、その両の目で

睨みつけるかのようにマリエルを見ている。おかしな事に機体越しにその視線を感じるのだ。まるでこ

の黒い機体が生きているかのように感じられる程に。

「絶対普通じゃないわ、あの機体は。帝国にもまだこんな切り札があったなんて・・・。でも、どうや

らあちらの共感者はまだあの機体に慣れて無いようね」

　対峙する二つの機体はゆっくりと離れ、手に持った武器で引き絞るように狙いを定める。二つの色彩

が煌くように陽光を乱射している。

　そしてお互いの刀身に帯びた光、一つは精霊の黒き力、一つは内蔵機関が生み出す銀のエネルギー、

が爆発するように強く輝く。

「行くぞ！」

「行くわよ！」

　揺らめいた時が再び動き出すように。

　再び背中に取り付けられたブースターを噴射し、一瞬にして互いの距離が詰まる。

「くおおおお！」

「はああああ！」

　弾き出されるように振られた黒と銀の刀身が激突し、その膨大なエネルギーが音と振動に姿を変える。

　二機の闘いを見守る形となった両軍は恐ろしい程の衝撃波が吹き荒れるのを見ながら、吹き飛ばされ

ないように陣形を維持するだけで、最早手一杯になっていた。

　伝説に残る機体達の闘いとはかくあるものか、と思わずにはいられない。

　今この瞬間も夥しい程の衝撃波が襲い来る。それだけで機体が押し潰されそうにもなる。

　精霊力の使えない白い機体達は堪らず後衛のレグス隊の後ろに下がる。

「何と言う凄まじさだ・・・・。しかし、ならばこそ。始祖機と互角に渡り合えるあの黒い機体は一体

何なのだ。現存している始祖機で使えるモノは操機兵に改装されたあの銀の機体一機だけのはず。それ

にあんな機体は聞いた事も無い・・・」

　レグスは疑問だけが渦巻いていた。ただ、今出来る事は精霊力で白い機体の盾になる事だけだった。

　次第に黒い機体が押し始めている。

「何なの。まだ出力を上げられると言うの」

　黒い機体の持つ精霊力ブレードの輝きも増しており、今ではドス黒い程に刀身が染まっている。もう

一振りの刃を出しての二刀流の剣戟は容赦無く、防ぐ度に重い衝撃が走り抜けて行く。

「はあっ！」

　隙を見て繰り出す槍の連撃も容易く防がれる。

「スピードも上がってるの？？何なのこの機体！？」

　容赦無く降り注ぐ二本の刃で見る間に傷が増えていく。

　マリエルには荒れ狂うように襲い掛かる黒い機体が笑っているように見えた。　

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