天地爆裂

神機激突

　両軍から突出した部隊が磁力で引き合うように、真っ直ぐに近付いて行く。

　その中から更に黒と銀の機体がぐんぐん抜き出て、両機とも他の機体を遥かに凌ぐ程の速度で見る間

に接近する。黒の機体の方が押しているように見えるのは、僅かにスピードが上と言う事だろう。

　大気を切裂くその様は、さながら小型の台風と言った様子。

「どうやらあちらの方が速いようね」

　マリエルは前方に迫り来る黒い機体を睨みながら、激突の衝撃に備える。何度乗っても最高速度の衝

撃には慣れないと思いながら。

「くうっ、何と言うスピードだ。目が付いて行かない」

　一方黒い機体を駆るレイウスも、改良型シルフィードすら上回る速度に正直舌を巻いていた。これ程

のスピードでもまだ限界速度では無いのだ。この調子だと最高速を出すと失神してしまうかも知れない。

「魔力が搾り取られていくようなこの感覚・・・・長くは持たないな・・・」

　本来霊機が肩代わりしてくれるはずの魔力の消耗も激しい。

「・・・・・・コレガゲンカイ・・・」

　パネルに映る黒い見た事も無い精霊もかなり強力らしいが、この黒い機体の前では見劣りするらしい。

レイウスが思うに、精霊云々よりも先に霊機自体が貧弱に見える。最新鋭の技術を総動員しても、まっ

たく追い付けないこの機体は一体何なのだろう。

「・・・ショウトツポイントマデ・・・アトサンビョウ・・」

　黒い精霊が警告する。名前はサタナキアとか言ったか。

「頼むぞ、ディアボロス！！」

　黒と銀の機体が大気を巻き込みながら、両腕を前に突き出す。

「うおおおおっ！」

「はああああっ！」

　二人のパイロットの気勢と共に二つの機体が激突する。渦巻くような振動が広がり、弾けるような音

が膨れ上がって辺りを包む。

　次いで鉱物を噛み切るような低い音が響き、突風のような衝撃波が過ぎ去った後には、二つの機体が

がっちりと両手で組み合っている姿が見えた。

「なんて衝撃なの・・・・」

　マリエルは後部ブースターと前部バーニアを一斉に吹かせ、何とか衝撃を逃がす。精霊に頼れない分

こういう時に大変だが、愛機はいつも期待以上に応えてくれる。

　だが今回は腕部が悲鳴を上げるのを堪えきれないようだ。

「出力もあちらが上ってわけ？信じられない」

　更に黒い機体に押されていく。このままでは押し潰されてしまうかも知れない。如何に特殊な素材で

出来ている始祖機とは言え、それも絶対では在り得ない。

「早く離れないと危険だわ」

　出力計が限界値を示し、先ほどから警告音が鳴っている。

「はあっ！」

　黒い機体を無理矢理蹴り込み、そのまま機体の胸を駆け上がるように跳び上がる。そして掴み合って

いる両手を軸に回転し、膝蹴りを叩き込む。

「何ッ！」

　黒いレイウス機はその衝撃にバランスを崩し、思わず掴んでいた手を離してしまった。よろける上体

を立て直す頃にはすでに体勢を立て直した銀の機体が距離を取り、背中に付けられていた槍状ビームラ

イフルから幾条もの光線が放たれて来る。

「サタナキア！」

　レイウス機から黒いモノが全身を纏うバリア状に発生し、光線を飲み込むように消していく。

「・・・テキダンショリ・・カンリョウ・・」

「助かった。よし今度はこちらの番だ！」

　レイウスは再びブースターを吹かせ、肩から精霊力ブレードを取り出して再び突進する。

「何なのあれは・・・」

　マリエルは黒い機体の精霊力に驚きつつも、機体をとっさに左旋回させて黒い機体を紙一重でかわす。

衝撃が右腕を走る。

「くうっ！・・・・・これは手強い相手ね・・・」

　機体を立て直しながら、再び距離を取り槍を構える。　

　黒と銀の機体は睨み合うようにゆるゆると旋回している。

　レイウスとマリエルが率いている部隊は、この二人の戦闘のあまりの凄まじさに足を止めて見入って

いるのみであった。

　ゆるやかな振動音だけが聴こえ、望む望まないに関わらず、どうやら一騎打ちの体となったようだっ

た。　

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