嘆きの代価

呼応する波紋

「レイウス、レイウス！どうした！？」

　ドランクは必死に通信で呼びかけを繰り返す。だが、何度やっても応答が無く、あちらの様子も解ら

無い。通信パネルには暗闇が映っているのみだった。

「ツウシンハムリダナ」

　横のパネルに映るサラマンダーも不可解な顔をしているように見えた。

「うーん、これは一体どうした事だの」

　いきなり沈黙した黒い機体はぴくりとも動く気配も無く、精霊力も感じられない。敵側も不可解なの

か攻撃してくる様子も無い。

「とにかく機体を回収せねばの」

　ドランクは味方全部隊へ向けて発信する。

「レイウスと一緒に突出した選帝公隊はレイウス機を回収、即座に戦闘区域から撤退、帰還せよ！他の

部隊は回収隊の援護に回れ！その後、全機離脱する」

「了解！」

　帝国兵達は指示を出されてようやく自分を取り戻したようだ。全隊、機敏に動き始める。　

「まあ、あんな闘いを見せられれば茫然自失にもなるわの・・・・。しかし、一体何が起こったのかの

・・・・・」

　ドランクも援護射撃を開始した。

「レグス少尉！敵弾向かって来ます！！」

「慌てるな！！あれはただの威嚇だ」

「ハッ。しかしどうしましょうか、このままだと逃げられてしまいますが・・・」

「放っておけ。我が軍もこれ以上の被害を出すわけにはいかない」

　無数に放たれた弾丸が次々と前方の大地に突き刺さる。土煙が煙幕となり、再び視界が遮られる。

　レグスは全部隊に防御に専念するように伝えた。

「それでマリエル機の状態は？」

「ハッ、まだ詳しくは解りませんが。北方の兵から聞きますにはダメージはかなりのものだと。マリエ

ル様はご無事です」

「そうか、ならば何よりだ」

「詳しい事は少尉から直接お伺いになられればよろしいかと思います」　

「そうだな。では最後まで気を抜くなよ」

「ハッ！」

　通信先の周波数をマリエル機に合わせる。土煙は未だ晴れる気配も無い。

「レグス様・・・・お恥ずかしい姿を見せてしまいました・・・」

　パネルに映ったマリエルはいつもより元気は無いものの、大きな怪我等も無さそうだった。

「いえ、あの黒い機体は私も予想外でした。あんな機体をまだ隠し持っていたとは・・・」

「ええ、あの機体は危険です・・・。あれも普通ではありません・・・」

「あれも？と仰ると」

「白い天使と同じモノを感じましたわ、あの機体に・・・・」

　レグスは嫌なモノが胸奥に広がっていくような、苦い感覚に襲われた。もし同じモノであるならば、

そう考えるだけで体温がぐっと低くなるのを感じた。額に滲む汗がひどく気持ち悪い。

「それよりも、マリエル様がご無事で安心しましたよ」

「ふふ、ありがとうございます。女は打たれ強いものなのですよ」

「はは、そうなのですか」

　そうして笑いあい、お互いの無事を祝福しあう。

　敵側の砲撃も止み、土煙も次第に晴れていく・・・・。戦闘の終わりを確信したその時。

「隊長！あ、赤い機体が・・・・」

「何ッ！」

　前方１０ｍ程度先の土煙が晴れると共に、そこから赤い機影が薄っすら覗いているのが見えた。

「はっはっは、このドランク様がただで帰ると思うてか、とりゃとりゃとりゃとりゃ！」

　赤い機体からいつぞやのように、無数のミサイルと弾丸が一斉に放出される。

「なッ！！」

　気付いた時には爆音と悲鳴がせめぎ合うようにこだましていた。

「隊長、数機撃破されました・・」

「何と言う・・・まさか霊機を作動させず己の魔力のみで動かし、ここまで近付いたと言うのか・・・」

　こちらが反撃する余裕も無く、疾風のように赤い機体は撤退して行った。

「油断した・・・・・」

　レグスはすぐさま帰還命令を出した。

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