ストレスの元凶

数多の災厄はただ一人からに集約される

　ウィル左将軍は未だ苛々も消えず、相変わらずにうろうろと落ち着き無く、部下達に煙たがられてい

た。実力は折り紙つきではあるが、ヒステリー気味なのが玉に瑕だと誰しも残念に思っている。

　部下達は出自をそこまで気にしているのはあんただけだと、誰か骨のある人物がはっきり言ってくれ

る事を常に願っている。しかしそれも叶わぬ夢のようである。少しでも賢明な人物はこの暗鬱男にそこ

まで関わるのを避けるから。

　と言う訳で部下達は今日も変わらず溜息を飲み込んでいる。

　ピリピリとした緊張感を貫くように静かな場に新たな通信が入る。

「左将軍、第一機兵団より入電！蒼い震浪より襲撃、至急応援を請うとの事です！」

「何ッ！？勝手な行動は慎み、孤立する事を避けるように言ったはずだ。何故出撃しているのだ！！」

「どうやらラグナート右将軍もご一緒のようです」

「・・・・あの男めが・・・・・・」

　ウィルは苦々しげに吐き捨てる。ここに至って彼の心労は最高潮に達した様子。

「またしても勝手な真似を・・・・」

「どうやら通達前に出撃されたようです」

「どちらにしても、命令無視なのは変わらん。将軍権限ではあやつにどうこう言う事は出来ないからな

・・・。仕方が無い、ドランクとレイウスを救援に向かわせろ」

「ハッ、しかし・・・」

「構わん。機体の方はとうに出来ておる。そう考えればラグナートも囮として良くやってくれたと言う

事よ」

　ウィルは神経質ような細長い目を更に細めながら、薄っすらと口元に笑みを浮かべる。

「右将軍殿自ら尊い犠牲になっていただけようとは涙が出る事よ」

　近衛達はそれを見ながら嫌悪感が一層強まっていくのを感じていた。

「まだ応援は来ぬのか、ギブラー！」

「ラグナート右将軍閣下、先程送電しました故もうしばらくお待ちを」

　第一機兵団長ギブラーは上官であるだけに苛立ちをぶつける事も出来ず、怒りで血管が切れないか少

し心配に思った。

　それもこれもあの蒼い奴のせいだ。

　ギブラーは彼方の機影を睨んだ。

「サラマンダー隊は弾幕を張れ、前方に集中させればどんな共感者であろうと避け切れる訳も無い！」

「ギブラー！それよりもシルフィード隊を突進させれば、それで終わりであろう！」

「右将軍閣下、それではサラマンダーを活かせませぬ故。ここは私にお任せを」

　先程から事あるごとに右将軍が横槍を入れてくる。突進だの突撃だの、自軍の機体の優位性をまるで

疑う様子も無い。こいつはあの蒼い奴にどれだけの部隊がやられたのか知らないのかと、ギブラーはこ

こにも厄介な敵がいたと今更ながら思い知らされた。

　そのくせこの無謀将軍は自らは後衛に陣して動こうとはしない。

　そして蒼い奴は恐ろしいスピードで近づいて来る。弾幕も足止めにすらならないようだ。かと言って

むやみにシルフィード隊を突進させても、それだけ兵の死期を早める事にしかなるまい。

「愚か者！見よ、青い奴はどんどん近づいて来るでは無いか。無駄弾使う暇があるなら、さっさと仕留

めてしまえ！！」

「右将軍閣下！ここは私にお任せ下さい！！」

「なッ、貴様・・・この我に逆らう気か！！帝国右将軍であるこのラグナートに！」

　ギブラーは通信を切り、如何にして生き延びるかを必死に考え始めた。もはや、ラグナートになど構

ってはいられない。

　だから大人しくウィル左将軍の命令に従っておけば良かったんだ、と出世後のラグナートへの復讐の

項目を増やし始めた。

　そして送電より半時も経たず。蒼い震浪はもう最前列の隊に届こうとしていた。　　

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