じいさん奮闘記

振り回される方々

　果てしない金属音と鈍い振動音が空気のように常に付き纏う。そこはそんな場所であった。帝国軍霊

機兵専用ドックには常に数十の機体が置かれている。それは修理の為であったり、改装の為であったり、

試作機であったりする。

　青年兵達は物珍しそうに、しきりに首をあちらこちらに振りながら機体達を眺めている。いわば最新

式の機体が揃っているので、警備も厳重であり一般兵等が滅多に出入り出来る所ではない。彼らは自分

の境遇もしばし忘れて子供のように目を輝かせていた。

「やはり、興味があるようだの。まあ特別な任務でもない限りはわしら一兵卒が入れるとこでは無いか

らの」

　ドランクはそれを見て微笑ましそうに頬を綻ばせた。そういう自身も楽しそうにキョロキョロと眺め

ている。本当に霊機兵が好きなのだろう。

「そうですね。また幾つか見慣れない機体もありますし。テストパイロットだった時が懐かしい」

　レイウスも先程とは打って変わった穏やかな表情でそれらを眺めている。

「そういえば、お主は元々テスト兵だったの」

「ええ、結構楽しかったですよ。あの頃の最新鋭機が今は練習機と言うのも少し哀しくもありますけど

ね」

「はっはっは、それは仕方なかろう。良いも悪いも人間進歩してなんぼだからの。おっ、どうやらあれ

らしいの」

　下が透けて見えるように工夫された格子版の上を暫く歩くと、ギイじいさんが綺麗に塗装された赤と

緑の機体の前で手招きをしていた。

「やっと来たか小僧共よ、この帝国の職人魂ギイじいさんが万全に仕上げておいたぞい。蒼い何たらな

んぞ御茶の子さいさいじゃて」

　緑の機体白兵戦用霊機シルフィードには全身に装甲が張られ、一回り大きくなっている。近距離射撃

用の大口径マシンガンを二丁搭載され、背中や脚部にあるバーニアも増やされているようだ。流線型の

機影が戦闘航空機かミサイルのようにも見える。格闘専用に腕や脚には他にも仕掛けがありそうだ。

　赤の機体中距離支援用霊機サラマンダーはトレードマークとも言える長大な砲身を更に口径を大きく

し、両肩にある砲身を三本に増やし火力を大幅に増されている。他にも全体的な兵装が強化されており、

支援用と言うよりは重射撃専用と言った感じになっている。そしてその分重量を増した機体を支える為

に、従来の二脚型から四脚型にされている。

「どうじゃい、これだけやれば文句なかろう。エース専用は一味違うぞい」

　ギイじいさんは大雑把に説明しながら、えへんと胸を張る。じいさんがそうしていると何故かとても

頼もしく思えてくる。

「流石ギイじいさんだの。それでわしらのは良いとして、新兵達のはどうなっておる？」

　清らかな目で機体に見入っていた青年兵達はドランクのその声に反応し、期待のまなざしをギイじい

さんへ一斉に向ける。

「おう、そちらも抜かりないわい。シルフィードとサラマンダーを三機ずつチューンナップしておいた

ぞい。装甲を張り、脱出装置も強化しておいた。どちらも扱いやすい汎用機をイメージしたのじゃよ。

少々喰らっても平気じゃから堂々と・・・・」

　じいさんは溜めながら顔をくわっと見開き。

「逃げよ！」

　ビシッと言い放った。青年兵達がガクッと脱力する。

「ふおっふおっふお、大丈夫じゃて。きちんとサポート出来るように、小散弾式中口径ショットガンを

装備させておるから。少々的外れても当たるぞい。まあ、無理せずにな。折角だからエース二人を働か

せてけばいいのじゃて」

　じいさんは良い反応じゃとブイサインを繰り出してから、他の仕事も詰まっておる。年寄りに仕事を

任せるとは何事じゃ、と理不尽な怒りを急激に撒き散らしながら他の機体の修理に向かった。

　黙って聞いていたゼロライムは前は帝国の救急じいさんじゃなかったっけ？？と疑問に思いながらも、

敢えて静かに見送ったのであった。

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