柵と傍迷惑

荘厳なる無恥

「レイウス、ドランク両名到着されました」

「うむ、通せ」

「ハッ」

　ウィル左将軍は自分で呼んでおきながら、胃の辺りがムカムカするのを覚えた。あの二人に会うとも

の凄い速度で、耐久力を著しく消耗する。成り上がりだと、自らの能力で伸し上がって何が悪いとウィ

ルは何度も叫びたくなる想いをじっと堪えた。それは被害妄想にも近い被虐的精神なのかも知れない。

　連れてこられた二人とその他大勢を前にして、彼は極めて簡潔に素早く用事を済ます事にした。思っ

てみれば、わざわざ自ら口頭で伝えなくても良かったでは無いかと身勝手ながらもひどく不機嫌になっ

てきた。

「両名ともご苦労。君らをわざわざ呼び寄せたの・・・・」

「そんな余計な話は結構、簡潔に言ってもらおうかの。わしらも暇ではないのでの」

「ぐっ・・・解った。つまりは対蒼い震浪部隊の編成だ。君ら二人に率いてもらいたい」

　ウィルは苦々しげにドランクを見詰める。ドランクは何処吹く風と言った様子、それを見ながらスト

レスのボルテージがいつも通りに跳ね上がる実感を味わう。

「それで私達が率いる部隊の兵士は何処に」

「ここに来てもらったので全てだが」

　その苛立ちをぶつけるように、レイウスの問いに嘲るように答える。

　それを聞いた二人の顔色が変わる。

「何を言っておるか。ここに連れて来たのはお主の言った新兵達だぞ。初陣にそんな相手を選ぶとは何

事よ！」

「そうです。現状最も脅威な相手と戦えと仰るのならば、それ相応の人員と装備が必要でしょう！」

「フン、わざわざエース殿が教官をしているのだ。他の兵達にも引けは取らないと思うが」

　それに対するウィルの答えはあくまで冷淡だ。憎々しげな表情が透けて見えるような気さえする。

「安心したまえ、霊機兵も特別に強化したものを用意した。以上だ、さっさと行きたまえ」

　それから反論を言う暇も与えられず、近衛達に追い出されてしまった。近衛達がすまなそうな顔をし

ていたので、流石の二人もそれ以上何も言えなかった。

　しばらく黙っていたが、とにかく用意された機体を見に行く事にしてゆっくりと歩き出す。

「むう、どうやら厄介払いをしつつもあわよくば蒼い震浪を・・・と言った感じかの」

「ええ、こうなっては仕方がありません。どのみち命令とあれば従うよりは無いのですから」

「うーん、そこがわしらの辛いとこだの」

「しかし無謀以外の何者でも無いですね」

「元々無謀な命令だからの。どうせ失うなら新兵をと言うことだろうの、奴の言う所の合理主義だろう」

　この二人は腹を括ったらしい。元来悲観しない主義なのである。

　青年新兵達は他にどうしようもなく、ただ二人に付いていたが今すぐにも逃げ出したくて仕方が無か

った。と言ってはいそうですかと逃げ出せる訳でも無く、命令放棄などすれば未来永劫帝国に安住の地

はなくなる訳であり、ただ顔面蒼白であるより他に無かった。

　ある意味諦めの境地に足った目で、しがなく廊下を歩く青年兵達を見たものがいれば。常世へ趣く亡

者のように見えたかも知れない。

　ただその中の一人だけは今尚、上官二人と同じ目をしたままだった。

　淡々と光が覗いている。　　　

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