不遜と度胸

仄かな光雲

「レイウス教官長よ、我ら二人を呼ぶとはいよいよ上も本腰になったようだの」

「ドランク機兵長殿、それにしては新兵を呼ぶ訳が解りません」

「そうだの、ならば厄介ばらいかの。わしら好き勝手やっておるからのう」

「私は自分が最善と思う事をやっているのみなのですが」

「はっはっは、それが好き勝手というのよ」

　長身の青年と壮年のがっしりした体格の男が、不真面目なような真面目なような不可思議な態度で歩

いている。その後ろに一回り若い青年兵達が５，６人続く。そう広くない廊下なので、これだけ歩いて

いるとすれ違う人達が顔をしかめながら苦労する。

　青年兵達は緊張してるのか、教官から言われているのか一言も喋らずに付いて歩いている。

「なるほど。ですが次世代の教育こそが最重要任務かと思います」

「うむ、確かにそれは間違って無いの。だがの、前線から退いているのは確かだからのう。エースと呼

ばれる共感者三人の内二人までが片隠居では歯痒かろう。まあ、出世に興味が無いと言うのが信用出来

ないのよ、あの種の人間達はの。わしはそれが嫌なんだがの」

「そう言うものですか」

「おう、そう言うものよ。それにオリジナルの事もあるからの」

「精霊は兵器では無いと言うのに」

　レイウスは胃の奥辺りから深い溜息を漏らす。それを眺めながらドランクは。

「まあ、じゃじゃ馬と豪快男を宥めながら操縦するわしらの苦労はわしらにしか解らぬからの。コピー

としか話した事の無い者は精霊を従順な道具としか思っておらぬからのう」

　とにやりと微笑んだ。

「俺の使っている機体のシルフは結構気難しいですよ」

　それを聞いていて呟いた青年兵の一人ゼロライムを、他の青年兵が二人の話を邪魔するな、後が怖い

じゃないかと突きまわす。

「おや、珍しいタイプだの。コピー精霊は人間に従うようにされておるのにの」

「こいつが不甲斐ないからですよ」

　レイウスは軽くゼロライムを睨みつける。

　青年兵達は驚き竦みあがったが、当の本人は慣れているのか大して気にした様子がなかった。つくづ

くマイペースな奴だとレイウスは心中苦笑しながらも、頼もしくも思った。肝の据わっている人間の方

が生きて戻ってくれる可能性が高いから。

　新兵達から鬼と恐れられる教官長も、当然可愛がる気持ちが無いわけでは無いのであった。

「ほほう、昔のわしかお主みたいなタイプかの」

「ドランク殿くらいでしたら、私ではどうしようもありませんよ。前教官長殿が苦労した苦労したとぼ

やいておられましたよ」

「何を言うか。お主こそこっちの方が効率が良いとか言って散々教官共を困らせたそうではないか。確

かな筋からきちんと情報は得ておるぞ」

「どんな筋からですか・・・」

「情報源は秘密にするものよ」

　ドランクは豪快に笑った。青年兵達は張り詰めているので、その大笑いに相当驚いた様子で４cm未満

は飛び上がったようなそんな心持でもあった。

「おおう、とうとう着いてしまったぞ。この先に畏れ多くもウィル左将軍閣下がおられるわけよ」

「またそんな心にも無い事をわざとらしく仰ると、余計な反感を持たれますよ」

「よいのよ。わしはすでに嫌いだからの。まだラグナート右将軍の方が解り易くてよいわ」

「私に言わせればどっちもどっちですが」

「うむ、そうとも言うの」

　青年兵達は不遜極まりない教官と上官を前に、これ以上余計な災難が降りかからない事を盛大に神に

祈った。ここからでは室内に丸聴こえだっただろう事も、その恐怖を増長させるに充分な材料でもあっ

た。

　ただ一人ゼロライムだけはのんびりといつも通りであった。彼だけはこの二人と同じ人種なのかも知

れない。それは幸か不幸か解らないけれど。

　もしかすれば、ただ将軍と言うモノの意味がピンとこないだけかも知れない。

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