胸中に翳るモノ

誠意ある決戦

「アウグストゥスの選帝公閣下、ウィル左将軍の所から連絡が入りました。どうやら、ドランク様とレ

イウス様で対抗させる様子です」

　レズナー参謀長はいつも通り事務的に伝えた。彼は公務時にはこういう態度をする。公私混同をせず

あくまで冷静にする事が参謀の参謀たる所以だと、固く信じているからである。ある意味客観的なモノ

の見方が必要であるとも考える。

「そうか・・・・、彼はジムスティウスの選帝公の後ろ盾があるのだったな。それならば、あの二人と

言えども断れまい。わしも二人を使うのが最善だと考える。霊機も改良済みだったかな」

「ハッ、すでにお二人の為にサラマンダーとシルフィードのチューンナップが完了しているとの報告を受

けております。特別に急がせたようで」

「ふうむ・・・、オリジナルにはオリジナルで・・・・か。単純だが効果的な戦法よな。しかし、蒼い

機体か。それほどの技術が共和国側にあるとは思えなかったが・・・・。白い天使と言い、どこから知

ったのやら・・・・」

　老衰しつつあるがそれでもなおしなやかにさえ見える肉体を怠惰に揺らしながら、選帝公は思案をめ

ぐらせているようであった。

　レズナーはそれを様々な思いで眺め。

「はい・・・、私もそれが解らないのです。我が帝国に比べれば取るに足らない小国でありましたもの

が、ここ２、３年で急激に勢力を強め、今では軍事力では我が軍と肩を並べる程になっております。数

こそ多くありませんので対抗出来ていますが、このまま行けばどうなるか解りません。現にもう三機兵

団が壊滅させられております故」

「単純に考えるとどこかが技術を提供したと考えるよりあるまい。東の大国か北の偏屈技術者共か・・

いずれにしても厄介な事よ・・・」

「我が国の技術者も尽力しておりますし、あの二人のエースが向かうのであれば心配は要りますまい」

　レズナーは精一杯の微笑みを形作った。こういう事ならば自信がある。何よりも、このお方にこれ以

上、肉体的にも精神的にも負担をかけさせる訳にはいかない。帝国にとっても自分にとっても必要な方

なのだから。

　それでも心配が翳りとなって胸中を刺すのは止めようが無かった。

「レズナーよ、あっちの方はどうなっておる」

「ハッ、それが・・・・やはり第一種精霊ともなりますれば・・・・・」

「そうか・・・、取り合えず機体の完成を急がせるのだ」

「承知致しました」

　翳るのは自分の心だけで充分だと、レズナーは深く願った。

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