苦労と気苦労

ともすれば巻き起こる風雨の中

　ウィル左将軍はいつもの如くちょろちょろと動き回り、部下の顰蹙をかっていた。

　時折眉根を寄せてはくわっと目を開いて憎々しげに何処でもない前方の一点を睨んでいる。

　そこへオペレーターが自然に嫌そうに電信された旨を伝えた。

「何！例の基地が占拠されただと、いったい何をやっているのだ！！」

　そう叫びながら、大方の予想通り側の柱を思いっきり叩く。その柱のその部分には痣のような跡が出

来ていた。もう何度この神経質な将軍に叩かれたか知らない不幸な柱である。

　ウィルは自己主張出来ないその柱を何度も何度も苛立ち紛れに叩き続ける。

「帰還したらすぐに来るように伝えろ！」

「了解しました」

　オペレーターは愛想も何も尽き果てて、いい加減飽きて来てもいた。

「うーむ、これは派手にやらかしたの」

　帰還した部隊達の機体を眺めながら、また仕事が増えたとがっくりするギイじいさん。

　基地に待機していた機体はほとんどダメージは無いものの。緑と赤の機体率いる先日精魂込めてチュ

ーンナップした機体達は燦々たるモノだった。

　それでも厚くした装甲と精霊達のおかげか、どれも浅い部分までしか弾痕も見えず。装甲や外装が剥

がれ落ちているに止まっている。

　だが精霊を酷使させた代償として、霊機類がかなりやられていた。精霊達も疲労してしばらくは満足

に力を使えないだろう。

「いくらオリジナル精霊だとは言え、のっけている霊機はそう違わないのだから。もっと機体を丁寧に

使わんかい！まったく、若いもんは無茶をしていかん」

　そしてドランクとレイウスは先ほどから説教されているのであった。壮年のドランクもギイじいさん

から見ればただの若造になるらしい。

「ギイじいさん、それは悪かったと思うとる。しかし、あの状況ではしかた無かったからの」

　ドランクがばつの悪そうな顔でやんわりと抵抗する。レイウスは黙って聞いているようだ。他の隊員

と基地兵だった者達は機体の移動や修理助手など、自分の出来る事で手伝っている。

　帝国ドッグは目の回るような忙しさに満ち溢れていた。

　こんな活気は欲しく無いと連夜働き詰めの整備兵達は心底思っている。

「仕方無いも何もあるかい！まったく、ちゃんと精霊達にも謝っておくのじゃぞ」

「解ったの」

「解りました」

　二人の普段はふてぶてしいエース達も今回は思う所あったらしく、素直に謝った。

　その態度に拍子抜けしたのか時間が惜しかったのか、ギイじいさんは今後は気をつけるのじゃぞ、と

言い残して整備に向かった。本当に忙しいらしい。

「うーん、流石にやり過ぎたのは解っておるからの。精霊達もほとんど喋らなかったし、今も疲れて眠

っておるしの。まあ、サラマンダーは普段もウオーだの気合だーとかしか叫ばんがの」

「こちらの予期せぬ援軍のおかげで相手の不意を付けたとは言え、敵側の援護していた蒼い奴の射撃は

中々に嫌な所をついて来てましたしね」

「まったくだの、セクハラで訴えても良いくらいだて」

　叱られた兄弟のようにしばらく二人で愚痴っていると、通信兵からウィル左将軍がお呼びですと嫌な

伝令を受けた。

「はあ、今度はあの男の相手かい。面倒だの、サボるかレイウス」

「何をいい大人が言っているのですか。大人しく出向きましょう」

「まったく、元々あの男がもっと部隊を送ってくれれば逃げずに撃退できたのにの。あの援軍が無かっ

たらわしらの隊も壊滅されたのかも知れんのに」

「そうですね。アウグストゥスの選帝公に感謝しなければいけませんね」

　そしてレイウス達は援軍の将である、アウグストゥス選帝公子飼いの第５機兵団長レズウェスに軽く

会釈をした。何でもレズナー参謀長の弟だとか何とか。

「他の選帝公は気取ってわしら何かにコンタクトを取ろうとすらしないのにの」

「ええ、大した方です。何やら動いてらっしゃるようですが」

「ん、どういう事なのかの？」

「ああ、レズナー参謀長が魔力の高い者を探しておられるのですよ。ガウェンとフォーウェンのお二方

にも何かさせているようですし」

「うお、あの変人技師長かい。まあ、腕は確かだからの。一体何をやっておられるだろうの」

「まあ、それはともかく。今はウィル左将軍殿の所へ行きましょうか」

「そうだの。でも、このまま行かなかったらストレスで胃潰瘍にでもなりそうだの、あやつは」

「それも面白いですね」

　二人はいつもの不遜さを取り戻したように、散々笑いのネタにしながら面倒くさそうにドックを出た。

隊員達にはこのまま修理を手伝うように言っておいた。　　　

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