ただいま０勝０敗１分け

詰めの甘さと痛み分け

「・・・・悔しいけど、操機兵には精霊力レーダーが付いてないから、視界が閉じられるとどうしよう

もないわね・・・」

　銀色の機体の中で、北方の銀髪姫マリエル王女は粉塵巻き起こっている前方を軽く睨みつけた。それ

で視界が晴れる訳ではないのだろうが、それでも敵機に一本取られた悔しさからそれぐらいはしないと

気がすまない様子。

「うーん、折角レグス様の前で良い所を見せようとしたのにね。オリジナル使用とは言え、ただの霊機

兵にしてやられるなんて、始祖機の名が泣くわ・・・・もう」

　操縦桿をコツコツと叩きながら呟く。

「マリエル様、我が隊の被害は小さいようです。皆直撃だけは避けられたようですし」

　横の小型スピーカーから音声だけが伝達される。

「うん、皆無事だったからよしとしましょう」

「そうですね。でも、流石レグス様が苦労していられるだけあって、中々やりますね相手も」

「そうね、正直一対一では戦いたくない相手だったわ。レグス様と同じで、セオリーとかそういうもの

に捕らわれない人みたいだし」

　溜息を付く度に艶やかな銀髪が静かに揺れて、反射した光が幻想的に膨らんでいく。

「もう少し速く私達も来れれば良かったのですが、あの赤い機体の援護射撃がとてもいやらしい所に飛

んで来るのですもの」

「ふふ、きっと意地悪な人なのね」

「失礼しちゃいますね」

　そう言っては二人でいつものように朗らかに笑い合う。

「取り合えず、基地は空のようだし占拠してしまいましょう。逃げられたけど、まだ引き分けなのだか

ら次頑張りましょう」

「はい、ではヴァルキリー隊、前方の基地の占拠に向かいます」

　白い機体達が次々と横を通り過ぎて行く。

　マリエルはそう言ったものの、やっぱり悔しくていつまでも操縦桿を叩いていた。

　

「うーん、どうやら追っては来ないようだの」

「ええ、操機兵にはレーダーがありませんし。後衛の蒼い奴の部隊も離れ過ぎてますから、余計な燃料

は消費させないでしょう」

　緑と赤の機体が整備された道の上を並んで疾走している。

　赤の機体の速度に合わせるように、緑の機体のバーニアは使用していないようだ。

「基地を占領でもしているだろうの。物資は残ったままだから、爆薬でも仕掛けておけば良かったの」

「そうですね。まあ時間がありませんでしたしねえ」

「うーん、今回は引き分けだの。しかしあの援軍はどこから来たのだろうの」

　ドランクは海岸線に現れた援軍の事を不思議そうに腕組みして考え始めた。

　その間、器用に足元のペダルだけで機体を操作している。

「ウィル左将軍で無い事だけは確かですね。あれは助かりました、おかげで無事逃げられましたし」

「はははは、確かにあの時は本当に死ぬかと思うたからの。そう言えば、他の者達も無事かのう」

「私達があれだけ苦労したのですから、無事に逃げ切ってもらわないと困りますよ」

「そうだの、骨折り損は御免こうむりたいからの。しかし今日は疲れた疲れた」

　ドランクは上半身を左右に半回転させる。その度に骨が小気味良く鳴り響く。

「ふう、やはりこれをやらんとすっきりせんの」

「しかし、いつも思うのですが。良く足だけで操縦出来ますね、余所見運転も日常茶飯事ですし」

「はっはっは、亀の甲より年の功っていうだろう。年季が違うのよ、わしは」

　高らかに笑うドランクの声がとても良く響いた。

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