世の中そんなに上手くは・・・行くかな？

儚きかな熱情

　緑の機体が宙を遥か舞い、乾いた音と共に地面に激突する。

　目の前には銀色の長大な槍が鈍い陽光を弾き出している。

「何と言う事だ・・・・」

　レイウスはバーニアを慌てて吹かしながら、機体を急いで後退させる。

　閃いた槍先が先程まで居た地面を深く抉り去った。

「レイウス、一体どうした」

　後衛のドランク機より通信が入る。

「弾き飛ばされたのですよ・・・・軽がると。このスピードとパワーは予想以上です。しかも、精霊力

が感知出来ませんから、純粋に自分の目と耳で感じ取らなければならない・・・。どうやら、危機はま

ったく去っていなかったようです」

「流石は始祖機と言う所かの・・・・。どうする、レイウス？」

「決まっています。逃げましょう」

「うむ、折角の増援はありがたいがそれしかあるまい。しかし敵わんのう、これだけ後から後から強力

な機体を持ってこられたのでは」

　ドランクは溜息を一つ付きながら、基地、隊員、そして増援部隊にすぐさま撤退するように電信した。

どの隊も不承不承ながらも納得してくれたようだ。ただ、基地の司令官だけは責任はそっち持ちですよ、

と涙も流しそうなくしゃりとした顔で訴えていたが。

「で、撤退するまでの時間稼ぎと殿を務めねばならぬの。おお、損な役割だの」

「私には楽しそうに見えますよ、ドランク」

　その時隊員の一人から通信が入った。

「お二人が残るのなら俺達も残ります」

「おうおう、血気盛んなのがおるの。だが、こんな重要な役目を若造共に任せられるかい。さっさと逃

げんか！！」

「戦場でも何処でも、まず自分が生きてきちんと役目を果たす事が大事だと、いつも教えているでしょ

う」

　怒鳴られ、いつも通り叱られても青年は、まだ何かを言いたそうな目を通信パネル越しに寄越してい

たが。さっさと行かねば撃つぞ！とドランク機に押し飛ばされ、しぶしぶ仲間達の後を追った。

「まったく、こんな時に面倒な奴だの」

「顔が笑ってますよ、ドランク」

「むむ、これは失敬失敬。まだまだ修行が足りんの」

　そして、味方部隊が急いで撤退して行くのを見ながら二人で一頻り笑った。

　敵兵も割とあっさり見逃してくれているのを見ると、やはり目的はレイウス、ドランクの二人らしか

った。

　幸いな事に海岸からの敵の増援兵は粗方倒されているし、白い部隊にも多少のダメージは与えられて

いる様子だった。

「しかし、どうするかの。あの銀の機体は厄介極まりないしの」

「何とかやってみます。援護頼みますよ」

　そしてレイウス機は待ち構えているようにしている銀の機体に向かって、再びバーニアを吹かして突

進して行く。

「ふふ、今度は何をしてくるのかしら」

　銀の機体を駆る銀髪の勇猛なる王女は、愛機の腰を落とし槍を構え、再び迎撃の姿勢を取る。操機兵

は精霊の力を使用しない見返りとして、自らの動きをスムーズに機体へと伝えてくれる。

「あのスピードは脅威だけれど、それだけではこのヴァルキリーには通用しないわよ」

　銀髪姫マリエルは槍先でロックオンするように狙いを定める。緑の機体はそれに自ら飛び込んで来る

ように更に加速したようだ。

「反応速度では負けないわよ・・・・・ん？？」　

　レイウス機は槍先が閃く手前で急激に上昇、そして頭部から鈍い衝撃。

「後ろね、甘いわ！！」

　マリエルは機体の上部を旋回し、その遠心力を乗せつつ背後に槍を突き出す。緑の機体を貫く事を確

信しながら。

「これで・・・・・えっ？？」

　頭部右側面に鋭い衝撃が走る。どうやら緑の機体は頭部を蹴って右に移動していたようだ。

「そんな、慣性とセオリーをそこまで無視出来るなんて！」

「決め付けるのは良くないですね」

　レイウス機は蹴った反動で浮かんだまま、マシンガンを突きつけ容赦無く撃ち込む。

「至近射撃なら少しは効果的でしょう」

　そのままバーニアを吹かし、緑の残影を残しながら後退するレイウス。

　そこへドランクの一斉射撃から立ち直った白の部隊が到着、一斉に槍先から射撃する。

「ドランク！！」

「おう、任せとけい。とりゃとりゃとりゃとりゃ！！！」

　赤い機体から夥しい数の銃弾、ミサイルが放出され、所構わず爆発と轟音を巻き起こす。そして噴き

上がった粉塵が視界を遮る。

「はっはっは、全弾ぶち込んでやったわい。気持ち良いの」

「さあ、とっとと帰りましょう。生徒に生きろと教えている以上、簡単にやられる訳にはいきませんし

ね」

　ドランク、レイウスはそれを合図のように武器類、兵装を撒き散らし、機体を軽くしながらぐんぐん

逃亡して行く。

　残ったのはそれらを悔しそうに眺める、共和国北方連合軍の面々だけであった。

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