無駄な権力者

皮肉の余裕も無い道理

「エース殿お二人が居ても中々難しいようだな。状況をきちんと説明してもらおうか」

　レイウスとドランクはいつもながらに明らかな嘲笑と侮蔑の篭った左将軍の口調にいい加減呆れて来

ている。どうしたらこうまで他人を気にしながら生きていけるのだろうかと、半分哀れみの視線を向け

られているのにもおそらくは気付かないのだろう。

「説明も何も、負けそうだから被害が最小限な内に逃げ出したと、そういう訳だの」

　仕方なさそうにドランクがぽつぽつと洩らす。

「ほほう、尻尾を巻いて逃げ出したと、そう言う事かな」

　明らかな過ぎる言葉にオペレーターを始め、ウィル左将軍の部下達がはっとして振り向く。

「ええ、簡単に言えばそうですね。ですが、あの連合軍にまともに対抗するのは無理ですね。共和国の

国力を考えれば、兵糧攻めかこちらも篭城するのも有効ですが。どちらにしても、我々の一部隊だけで

は到底無理です。相手方の戦力というものも考えて欲しいですね」

　レイウスは半分無視している為か、気にもならない様子でありのままの考えを伝える。

　部下達はほっとしたように自らに課せられた仕事をこなす為にパネルへと目を落とした。

「それでおめおめと戻って来た訳か・・・。フン、心配しなくてもあの程度の軍勢にいつまでも押され

る我らが帝国ではないわ」

「それではもうすでに対抗手段は考えてあると言う訳だの」

　ドランクも気にした風も無くいつも通りの調子で問う。

「延々と攻め立てればすぐに音を上げるだろう」

「ん、そんな事をすれば被害は増えるだけだぞい。それまでに一体どれだけの犠牲者が出るか、お主は

少しは考えた事があるのか！」

「フン、帝国の為に戦うのが軍人の務めではないのかな」

　ウィルは声を荒げるドランクを気にも止めつ様子は無い。

「ドランク・・・・、何を言っても無駄でしょう。こうなれば、やはり我々でやるしか無いようです」

「・・・そうだの」

「そう、二人が頑張ればそれで・・・・」

　レイウスとドランクは尚何か言おうとするウィルに背を向けると、そのままさっさとドアから出て行

った。

「・・・・・この私をこうも愚弄するとは・・・」

　ウィル左将軍のせこせこ歩き回る速度が、心なしか少し上がったように見えた。

　一方廊下に出たレイウス、ドランクは。

「うーむ、やっぱり左将軍は当てにならんの。こうなったら、右将軍になったイザリーに頼んでみるか

の」

「ドランク、右将軍は主に帝国の防衛が任務ですから。まさか近衛師団が帝国から離れさせる訳にもい

きませんから。多分、困らせるだけでしょう・・・・」

「そうだの。しかし、今の我々の一小隊では無理がありすぎるからの・・・」

「そうですね・・・・」

　ウィルの事などすでに頭には無く、建設的な悩みの打開策を探していた。

「うーむ、ではいっその事選帝公閣下の私兵を借りてしまおうかの」

「それしか方法はありませんね・・・・。ジムスティウス閣下は左将軍と懇意ですから無理でしょうね。

とするとやはりアウグストゥス閣下ですか・・・。他の選帝公閣下にはこのお二人方程の兵力はお持ち

で無いはずですからね」

「うむ、自治領内の防備の兵力を差し引きして、余裕のある方はやはりあのお方しかおらんだろうの」

「まあ、援軍を送っていただいたお礼がてら出向いて見ましょうか。駄目で元々で」

「そうだの」

　二人は一緒に踵を返すと、足早に歩いて行く。

　この国で皇帝と並ぶ程の偉人の下へと。　　　

「しかし、最近働き過ぎですね」

「おう、疲れてしょうがないわ。終わったら休暇とるかの、一生分」

「そうですね」

　相変わらず緊張感は薄く見えるものの。

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