相応しい権力

ある種の鼓動が聴こえる

　細長い廊下を１０分程歩き、途中で会ったオペレーターにアウグストゥスの選帝公へアポを取る連絡

を入れてもらう。

「２０分後くらいからならお会い出来るそうです」

「ふむ、解った。ありがとうの」

　それから再び歩き出す。

　選帝公領へはそこそこの距離があるので、一度通用口まで行きそこから足となる乗り物を借りなけれ

ばならない。

「おう、車を一つ借りるぞい」

「ハッ、ドランク様。どうぞお使い下さい。レイウス様もお気をつけて」

「ありがとう」

　通用口の衛兵から霊機駆動の小型四輪車を借り受け、それに乗って舗装整備された道を軽やかにスピ

ードを飛ばす。

「ふむ、中々スピードが出るの。良いのを借りたわい、これも日頃の行いが良いからと言うもの」

「いえいえ、私の人徳のおかげでしょう」

　そんな話をしながら、更に１０分程道なりに進む。

「うむうむ、これだとちょうど良い頃に着けそうだの」

　選帝公領への門を門番に会釈しながら通り抜ける。

　景色は一転し、周りには木々や小鳥の鳴き声が広がる。湖からは爽やかな風が吹き、草原からは青々

とした香りが漂って来る。帝国首都内ではここでしか見る事が敵わない景色だろう。

「相変わらずいい趣味しておるの」

「そうですね。やはり緑が無いと落ち着きません」

「うむうむ。おっ、着いたようだの。しかし、広過ぎるのも不便だのう」

　前方には古代の城のようなデザインをした建物が雄々しく聳え立っている。

　入り口付近に車を止めさせてもらい。キーを執事に預けて中へと踏み入る。

　ホールは空へ抜けるような広い空間になっており、主人を現すかのように華美な装飾類は見当たらな

いものの、一つ一つが丁寧に作られた品でひどく落ち着く濃い深い色彩で統一されていた。

　そのまま執事に案内されるままに歩き、書斎のような部屋に通された。

「久しぶりだな・・・ドランク、レイウス」

　椅子から低い、しかし透き通るように耳障りの良い声が室内に響く。

「こんな格好ですまぬな。わしも衰えた故・・・・。それで用件とは、何かあったのかね・・」

「実は・・・・」

　レイウスが援軍の礼を言ってから、かいつまんで要点だけをまとめて事情を説明する。

　椅子にゆったりと腰掛ける選帝公は深い眼差しを向けながら、じっくりと聞いていた。

「なるほど・・・、ウィルめにも困ったものだ・・・。良かろう、わしが皇帝陛下に許可を願いすぐに

でもわしの私兵達を与えよう。自由に使ってくれ」

「ハッ、感謝致します閣下」

「ふふふ、レイウスも一端の礼儀は弁えるようになったか、これは愉快愉快」

「閣下もお人が悪い・・」

　レイウスは苦笑しつつ、この男にしては珍しい程丁寧に頭を下げた。ドランクも同様に深く頭を下げ

る。

「よいよい、御主等にも苦労をかけておるからな。それで、替わりと言う訳では無いのだが。二人に頼

みがあるのだが・・・」

「頼みとは？」

「うむ・・・・」

　選帝公は二人を近くに寄らせ、声を潜めて伝えた。

　外からは太陽の光をいっぱいに浴びて、ご機嫌な小鳥達が囀っていた。

　レイウスとドランクは再び車を飛ばしながら、何やら難しい顔をしていた。

「うーん、どう思いますか？ドランク」

「そうだの・・・・。確かにイザリーを除けばわしら二人くらいしかいないからの・・・」

「そうですね。確率から言えば私達が一番適任かも知れませんが・・・」

　流れる街並みがいつまでも現実味が無く続く。戦争が勃発して以来人通りも寂しく、溢れるほど賑わ

っていたこの道も数える程の車も走っておらず。荒涼ここに極まれりと言った風であった。

　人工物は人が消えるとやけに寒々と感じるのは何故だろうか。

「確かに戦力が増すのも確かですから、シルフには悪いですが私が使ってみましょう・・・」

「ううむ、お主の方が魔力も高いからの。しかし、本当に良いのかレイウス。ここはやはりわしが・・」

「いえ、私も興味がありますから」

「そうか・・・、しかし出来れば使いたく無いがの・・・あんな恐ろしいモノは」

「・・・そうですね」

　レイウスはドックへと通信を入れた。

　やけに吹く風が少し身に染みる、二人とも或いはそんな気分だったかも知れない。　　　

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