狂喜の悪魔

神代の黒い亡影

　今日は朝から出撃命令が下った、と言うよりはレイウス教官が下したのだろうけど。

　何だか嫌な朝だったような気がする。何がどうって事も無いのだけれども、空気に嫌な圧力があった

ような。まあ、気のせいだと思う。

「おい、ゼロ。気を抜いてると、また教官にどやされっぞー」

「ああ、解ってるって。気を抜く余裕なんかあるかよー、これで出撃三回目でもまだ全然落ち着かない

んだからな」

　コクピットの計器類を確かめながら、霊機の中に居るシルフに軽くあいさつをする。

「今回はまともにやって下さいね」

「はいはい、死にたく無いし頑張ってるって」

「やる気が感じられません」

　座席シート横のパネルからいつもの説教染みた声が聴こえてくる。馴染みがあるからと言う事で、ギ

イじいさんが俺達がいつも使っていた練習機から精霊をこの機体に移したらしい。

「まったく、余計な事を・・・・」

「何か言いましたか」

「いえ、滅相もございません」

　ドック内には未だ整備中の機体がずらりと並んでいる。先の基地襲撃から逃れて来た機体達の所為も

あって、かなりの数になっている。臨時的に整備兵を増員したそうだ。多くは街の修理技師達で、見か

け無い顔が多い。

　ギイじいさんとは馴染みの人ばかりらしいが。

「おーい、機体の調子はどうじゃ」

　噂をすれば何とやら。まあ噂では無く、思っていただけだけども。

「問題無いみたいですよ」

「精霊さんはどうじゃ」

「いつも通りですよ・・・・」

　ギイじいさんは楽しそうにキシシシと笑う。何でわざわざ練習機から精霊移す何て面倒な事をやった

のか、本当の訳が今はっきりと解った。

「このじじい・・・・・」

「ふおっふおっふお」

　相変わらずの長閑な笑い声も、今はただ憎たらしい。

　でも、今はそれよりも気になる事が。

「教官の機体が今日は違うけど、あれは新型？」

「んー、まあそんなとこじゃい」　　　

　レイウス教官の乗り込んだ機体はいつもの緑の強化型シルフィードでは無く、深い黒に塗装された大

型のものだった。

　今までに見た事も無い機体で、巨大な人間と言うよりは昔話に出てくる悪魔か龍人と言った感じだっ

た。研ぎ澄まされた刃のように鈍く光を反射していて、そこかしらから鋭利な角のようなモノが突き出

ている。背中のブースターも羽のように幾層も重なっていて、さながら翼のように大きく左右に迫り出

されている。

　全身を甲冑のように霊機類が覆っていて、それぞれを繋ぐ管が血管のようにも見えた。

　何にしろ不気味な機体だった。それに側に居るだけで神経がぴりぴりして圧迫感のようなものを感じ

る。でも不思議と何か惹かれるような・・・。

「何だか怖そうな機体だね」

「そうじゃのう・・・・、性能は保証付きなのじゃが中々に扱い難い機体でのう。古代の太陽神をモチ

ーフにしたのだとか何とか」

「ふーん、神様って言うよりは魔王って感じだけど」

「そうじゃの。名前もディアボロスじゃそうじゃ、何だか響きも魔王っぽいのう。せめてボがポだった

らのう、ちょっと親しみやすい感じじゃったのに」

「うんうんディアポロスだったらねえ、ちょっと可愛い感じだったのになあ」

　どう見ても神様って感じじゃない。強そうではあるけど。

「何か目か口からレーザーとか出しそうだね」

「ふおっふおっふお、中々面白い事をいうのう。言いえて妙じゃい」

　その時、向こうの整備兵がギイじいさんを呼んでいる声がちょこちょこ聴こえた。

「おう、今行くぞい！じゃあ、わしは仕事があるよって。まあ、レイウス達の足を引っ張らんようにな。

サポートして、危なくなったら逃げるのじゃ」

　そう言い残すと、ギイじいさんは北風のようにひゅるりと向こうへ消えて行った。

「うーん、でも何か胡散臭いんだよな・・・あの黒い機体・・・」

「胡散臭さは貴方の方が上です」

「うわっ、酷いやシルフ」

　そして傷心のままスタンバイへ。出撃前は絶妙に緊張するなあ・・・・。　

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