こちらも無意味な喧騒

穏やかな侮蔑

　室内に篭るのは精神衛生上非常によろしく無いと考えられる。

　共和国最高指令室、名前は立派だがとてもとても良い環境とは思えない。それが人間の内面にどう影

響するかは、やはり人それぞれだと思われる。

「ルース准将、取り合えず基地を死守出来た様で何よりですね。まあ、被害も甚大らしいそうですが」

「戦争をすれば被害が出るのは当たり前だと思いますが、ギリアム大将」

　ルースはこの大将とは出来るだけ関わりたく無かった。有り体に言えば大嫌いだった、それも心底に。

それはここに居る誰もが思う事だろうが。

「ほほう、それでまた我が国の資源と予算が削られたわけですね」

　ギリアムはいつもの如く小馬鹿にしたように笑う。

「ギリアム大将、いい加減にしないか」

「これはこれはレクレリー元帥閣下、失礼を致しました」

　レクレリーは面倒そうに微かな溜息をつく。呆れ果てる事にも疲れたような、そんな印象を受ける。

室内にもそんな雰囲気が伝染し、窓の無い一室は更に薄暗さを増したような気さえする。

「過ぎた事よりも先の事でしょう。無意味な言葉は嘲笑ともとれますし」

　そう発言するクリストル少将からも苛立ちが冷たい刃を更に研ぎ澄ませているような、そんな雰囲気

が出ている。

「あの基地内に蓄えられていた物資を考えれば、成功と言っていいのではないですかな」

「ええ、私も少将の言う通りかと思います。後は衛生兵と整備兵を送り、態勢を整えてから攻勢に出れ

ば良いかと思いますが」

　ヒューラー中将が補足するように告げる。

「まあ基地内に置かれていた機体には逃げられましたけどね」

　落ち着きつつあった雰囲気をぶち壊すように、再度ギリアムが発言する。

　他の将官はうんざりを反芻するような状況に慣れる事も無く、ただ疲労感が増すのを感じていた。

「で、結局何が言いたいのかね。ギリアム大将」

「私が言いたいのはただ一つですよ、元帥閣下。我々には切り札を温存出来る程の余裕はありませんと

言う事だけです」

　ギリアムは不気味な執念を匂わせるようにただ一つのモノに拘っている。　

「それは・・・・」

「そうです、あれを使いましょう。あの白い天使をね」

「だから乗り手はどうするのかね！」

　クリストル少将がいい加減にしろと言った様子で声を荒げる。

「別に良いでは無いですか、誰でも。一戦闘だけ持てばそれで良いのですからね。今までもそれで事足

りたはずでは」

　ギリアムは当たり前の事を聞くなと可笑しそうに笑いながら答える。

「くだらない事に拘るから苦労するのですよ。共感者など使い潰せば良いのです。そう白い天使に捧げ

るのですよ、美しい犠牲愛じゃあないですか。美談になると知れば英雄志願者も殺到しますよ、アハハ

ハハ」

「き、君は何と言う事を・・・」

「元帥閣下も将官の皆様も、結局はあれに頼るしか無いと言う事は解っている事ではないですか。思想

は違っても結局は同じ事ですよ。でしたらとっとと使いましょうよ」

「いい加減にしたまえ、ギリアム大将！もういい、君は退出したまえ。しばらく謹慎して頭を冷やして

来るといい」

　レクレリーは警備兵を呼ぶとギリアムをしばらく軟禁するように命じた。

「今更余計な正義感を振りかざしても誰も救われませんよ」

　ギリアムはそう言い残しながら、引き摺られるように両脇を兵に掴まれて退室して行った。

「まったく、何たる事を・・・・」

　レクレリーは頭を押えて豪奢な椅子に埋もれる。他の将官も似たような様子だ。

「ともかく救援を送りたまえ。詳細はルース准将に任せる、以上だ」

「ハッ、承知致しました」

　敬礼するルースもただただ疲れを覚えるのみであった。

「白い天使か・・・・・」

　しかし最後はそれに頼らざるを得ない事も、その場に居る者には充分過ぎる程に解っていた事なので

ある。

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