戦火の一コマ

一つの不甲斐ない結末

　真白に統一された単調な色彩の一室にベットだけが置かれている。その上に寝かされた男は身動ぎ一

つせず、薄い呼吸のまま瞼を静かに閉じていた。

　医師らしき白衣を纏った女が腕と首筋の脈拍を確認する。

「やはり身体には異常は見受けられません。ただ生命力に力強さが感じられませんし、何より普段猛っ

ておられた程の魔力が今は微塵も感じられません。おそらくは生命維持の為に休眠状態に入ったのだと

思われますが・・・。生命意地が何時まで出来るか、それとも回復するのか、それも解りません」

　女医は辛そうに眉根を寄せている。そしてベットの上の男、レイウスの衣服を優しく正す。

「では失礼致します」

「おう、ごくろうさんだったの」

　連絡を受けて駆けつけたドランクは何度か振り返りながら退出して行く女医を見送った。こんな時代、

負傷者はごまんといる。一番身体を酷使されるのはいつも治す側の人間だと、ドランクは申し訳無く思

った。自分は壊す方の側だから。

「レイウスよ・・・。一体何があったのかの・・・、あの黒い機体で一体何が・・」

　目の前に寝かされた、表面上はいつも通りに見える静かな男は何も答え無い。

　その時廊下を駆ける音が看護婦の注意する声と共に近付いてくるのが聴こえた。何事かとドアを開け

て手を伸ばす前に目の先で盛大にドアが開けられ、危うく鼻をドアに持っていかれる所だった。

「うおっ！！」

　そのまま入って来た何者かに突き飛ばされ、しばらくコマのようにくるくる回されてしまった。

「一体何の騒ぎかの・・・・」

「レイウスレイウス、しっかりしろ！！」

　三半規管が酔った感じを振り払いながら無理矢理目を開けると、レイウスが胸倉を掴まれてバタンバ

タンと上下に揺らされている所だった。

「こっ、こら！病人に何をするのかの」

　何も聴こえないと思ったので、後ろから抱き付いて無理矢理引き剥がした。何だか柔らかい感触が腕

の辺りに当たったような気がする。　

「ん、イザリーかの！？」

　その荒っぽ過ぎる侵入者は帝国現右将軍イザリーその人であった。

「レイウス！」

　更に追いすがろうとするイザリーを必死で宥める。膂力溢れる程のドランクでも大変な労力と時間を

労し、何とか説明して大人しくさせた。

「まったく、相変わらず見た目とは正反対な激情家だの。苦労させられる」

「すまない、ドランク・・・」

　今は静かに二人でレイウスを見守っている。

「とにかく、今は安静にしている以外にどうしようも無いようだの。生命力と魔力が弱まって、生きて

いるのも不思議なぐらいだと医師は言っていたの」

「そうか・・・」

「心配しなくても、この男はしぶとい奴だからの。すぐにケロッとして戻ってくるわい」

「そうだな・・・うん、きっとそうだ」

　ようやくイザリーにも少しの笑顔が覗いた。看護婦が花を生けた花瓶を持って来て飾った後、一礼し

て出て行った。

「しかし、将軍ともあろう者が公務はいいのかの？」

「ああ、戦火が前線の辺りだとまだ右将軍の仕事は多くないからな。少しくらい暇は作れる」

「そうかの・・・」

　レイウスは相変わらず規則正しく薄い呼吸をしていた。窓から流れる安らかな風にすら、かき消され

そうな程の。

「私も自由に動きたいのだけれど・・・・」

　哀しそうに見詰めるイザリー。

　ドランクも黙って見詰めていた。今にも目を開けて、いつもの口調で

「おや、二人揃ってめずらしいですね」

　等と言ってくれるのを待ちながら。

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