己が手で　己がままに

武運、天に委ねず

　震える指が今も治まらない。

　レグス様の機体も敵将に深刻なダメージを与えながらも捕らえられ、これでこちらの将は二人とも戦

線離脱を強いられる事になってしまった。

　それでも通信を使えば指示も出来る。その為、未だこちらに有利な展開となってはいるけれど、それ

も何時まで持つか解らない。

「情けない、折角レグス様をお助け出来ると思ったのに」

　でも、あの黒い機体を思い出す度に理由の解らない震えに襲われる。

　死を畏れるような、そんな本能的な恐怖に・・・・。

「でも、だからこそ。これ以上寝てる訳にはいかない」

　愛機の修理が終わるのにはかなりの時間が必要だろう。それにすでに北方へ輸送している。

「確か水中戦用ウンディーネは待機中のはずだったわね・・・」

　改良されているとは言え、機体性能は高く無いけれど。

「それでも、ここで寝ているよりはマシだわ」

　マリエルは頭を一つ振るうとゆっくりと寝台から起き上がった。そのまま、まだ少しよろける身体を

気力で突き動かすように壁に沿ってゆらゆらと歩いて行く。

「私の身体自体にはそんなにダメージは無かったはず」

　自分を守ってくれた愛機に心から礼を捧げながら。

　

　無理矢理着陸するのはやはり無謀だったようで、全身に反発するような衝撃が震える。

「くッ」

「大丈夫ですか、レグス様・・・」

　小パネルのウンディーネが心配そうに見詰めている。

「問題無い、それよりも君の方こそ大丈夫か」

「はい、私達精霊は霊機さえ無事でしたら」

「そうか。すまない私の未熟故に機体を・・・・」

「レグス様がご無事でしたら、きっとあの機体も喜んでくれてると思います」

「ありがとう・・・・」

　コクピットのハッチを開けると、整備兵と衛生兵が駆け寄って来た。その者達に至急霊機を残存して

いる機体に移し変えるように命じる。汎用ウンディーネは予備が無い為、水中戦用になるだろうが仕方

が無い。このまま将無しにいつまでも有利に戦える相手では無い。

「作業を急がせろ！」

　レグスはボロボロのパイロットスーツを着替える為に駆け出した。衛生兵が微細な傷を治療しようと

する時間すら惜しむように振り払いながら。

　北方の白い機体が中距離主砲の一撃で破片を撒き散らしながら後方へ吹き飛んで行く。霊機の重さの

無い分、装甲も強化されているとは言え。精霊力が無い以上当たればダメージを防ぎようも無い。　　

　汎用ウンディーネもどちらの機体もその移動速度さえ何とか出来れば、まだ充分にこちらにも勝機は

ある。帝国整備兵も負けてはいない。

「よし、二列縦円陣じゃ！皆固まれい！！」

　サラマンダー隊が円陣を組み、その外側にシルフィード隊が円陣を組んで行く。

「一斉旋回射撃！！」

「了解！！！」

　ドランクの命令と共に、一斉に帝国機達がジグザグに旋回しながら砲撃を始める。円が伸縮を繰り返

しながら回転し、弾き出されるように弾道が不規則に放たれる。

「どうせ狙っても当たらんのなら、狙わず撃ちまくれい！！はっはっは、難しく考えるのは性に合わん

からの」

　ドランクは高らかに笑う。伸縮し回転する円の為に敵側も狙いを付けられない様子で、あまりに無茶

と言えば無茶な陣形に、あっけに取られて逃げ遅れた何体かの敵機から次々に爆音が燃え上がる。

「ゼロライム、ゼロライム」

　それを敵側と同じように唖然として見ていたゼロライムは、いきなりの通信に驚いて思わず頭を座席

に思いっきりぶつけてしまった。

「あててて、はいゼロライムです」

「何やっとるんだの、お主は・・・」

　通信パネル越しに呆れているドランクの顔がくっきりと映る。おそらくシルフの奴が敢えて鮮明に映

したのだろう。あのチビ妖精めと、ゼロライムは心中で罵詈雑言を浴びせる。ドランクが見ていなくて

も口に出せないだろう所が、如何にも情けない。

「まあ、良いわ。お主は背後から敵機を撃破してくれい。今ならこっちに気を取られているからの」

「あっ、はい了解しました」

「うむ、相手も中々の兵だからの。なるべく早くの、相手が我に変える前に、わしが目が回る前にの」

　そう惚けながらドランクが通信を切るのとほぼ同時に。

「サタナキアスタンバイ、戦闘システム起動！」

　メイン霊機が駆動し、ぶるぶるとした振動がシート越しに身体に伝わってくる。

「・・・・システムキドウ・・・オールグリーン・・・」

　メインパネルが切り替わり、残り限界時間が刻み始める。

「行くぞーーーッ！！」

　解き放たれた黒い悪魔が嬉しそうに疾走する。

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