奮起一喝・不安残影

消え去れない畏れ

「敵影確認しました。距離右後方３０」

「ドランク機兵長、敵影です！」

「うむ、こちらも確認した。すでに視認出来る距離だの。お主は被弾しないように精霊力フィールドを

きちんと張っておくのだぞ」

「はい、二種の精霊が居てくれますから何とか大丈夫です。機兵長もお気を付けて」

「はっはっは、お主に心配される程柔ではないわい」

　その間にも次々とシルフが敵機の数と距離を報告して来る。どうやら、激戦区に到達してしまったよ

うだ。爆音と粉塵の数も夥しい。

　びりびりと着弾の振動も感じる。

「はーーーーッ、やっぱこえーーー」

　ゼロライムはある意味無神経と言えそうな程の図太さを持っているが、それでもやはり人間ではあっ

たようで、砲弾の降り注ぐ中に居るのは怖いようだった。

　彼の乗る機体ディアボロスに搭載された、暗黒精霊第一種サタナキアには零距離射撃か白兵戦兵器で

も無ければ、全て防げる程の力があるのだが。サタナキアの力を使うには戦闘システムを起動させる必

要がある為、この精霊の力は今は使えないのである。

「心配症ですね・・・・、似合いませんね」

「相変わらず酷い言い様だな。もうほとんど俺の専属精霊なのに」

「それは絶対に拒否します」

「うーん、精霊からこんな扱いを受ける俺ってどうなんだろうな」

　勿論サブユニットとして搭載された風精霊第三種シルフにも弾道を歪めるくらいの力はある。

　今も度々訪れる流れ弾を逸らしてくれている。とは言え、それでも怖いものは怖いとゼロライムは思

う。それを認めるのは少し悔しい気もするのだが。

「しかし・・・・流石に多いな・・・」

　少しずつ味方の機体の反応がレーダーから消えて行く。その分、帝国側にとってはますます不利な状

況に陥っているのは確かだった。敵隊長機を撃破しても変わらないこの様は。共和国北方連合の兵の強

固さを物語っていると言っても良いだろう。

　一方、救援に向かったドランクは。

「うぬ、これは・・・・流石に辛いかの」

　見る限り帝国側一機に対して敵側は二機と言う状況も少なくは無い様子で、こうしてる間にもそんな

状況が更に増しているのだろう。総戦力としては依然互角と言った所だろうが、このままでは弱い所か

ら各個撃破されて崩されていくかも知れない。

「イザリーももう動けまい・・・。わし一人で果たしてどれだけの事が出来るかの」

　ドランクにも連戦による疲労が蓄積されている。勿論口には出せないが、常にぎりぎりの戦いを強い

られる事やレイウスへの心配も、確実に精神力に影響を及ぼしている。

　不安にもなって然りというものだ。

「最後の頼み・・・は使わせたくないの・・。わしがやらねば誰がやる！」

　両頬を叩き、気合を入れなおす。古来から伝わる自己一喝法である。

「お主らも気合いれんかい！！」

　帝国兵達に檄を飛ばしながら、愛機赤いサラマンダーを疾駆する。　　

　前線を離れたブランクを打ち消し、一個の武人としたモノを取り戻すかのように。

「うりゃうりゃうりゃ」

　サラマンダーの中長距離主砲がその名を誇示するかのように何度も火を吹く。　

「距離を取れ、分散するな陣を集中させろ！わしが来たからには、気の抜けた操縦などしようものなら

張っ倒すからの！！」

「了解！！」

　全てを震うかの如きドランクの一喝に帝国側の士気も高まり、指示系統も再び確立された事によって

俄かに活気付く。

「即席連合めが、一枚岩の連携と言うものを見せてやろう！」

　ドランクも芯に再び燃え上がるモノを感じ、昔の何かを濃く思い出していた。　

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