大いなる咆哮

脅威の制限時間内

　相変わらずこのディアボロスの加速は凄まじい。

　闇と風の精霊が慣性を緩和してくれても尚、胃の中の物が引っ張り出されるようなそんな重圧を感じ

る。気を抜くと操縦桿から手がもがれそうな程に。

「ううう・・・一生慣れない気がするな、この感覚」

　それでも少しの軽口を叩く余裕は生まれてきている様子だ。

　ただ、気のせいか前よりも使うごとに速度が増しているような気がする。そしてその分、自分の手か

ら離れて行くような気もする。

　それが何かは解らないけれど。

「・・・・ミギゼンポウニ・・・テッキカクニン・・」

「この状況でも包囲されているのには変わりないんだ。せめて半分は撃破しないと、頼むぞサタナキア、

シルフ、そしてディアボロス！」

　左部バーニアで慣性を和らげながら、ゆるりとしたカーブをつけて右に旋回する。その時にはすでに

敵機まで数メートルの距離だった。

「・・・・ロックオンカクニン・・・」

「よし、いっけえーーー！！」

　両肩から二振りの精霊力ブレードを引き抜き、逆袈裟に×印に切裂く。そのまま加速を乗せて体当た

り。汎用ウンディーネがその衝撃で四つに分断されながら、散り散りに飛ばされていく。

「次！！」

　それを眺める暇も無く、近くに居た白い機体に体当たりの反動を利用して接近し、左手のブレードを

一文字に振り抜く。

　刀身が白い機体のほっそりとしたウエストを一閃し、オイルを撒き散らしながら上半身が滑り落ちて

行く。

「よし、白い機体でも一番細い部分なら真っ二つに出来るんだ」

　精霊力ブレードの刀身はまだ物足りないかのように、獲物をよこせとぶるぶると振動している。心な

しか色も一層どす黒く濃いくなっているように見える。まるで生き血を吸って力に変えると言う、妖刀

の如く。

　それに誰も気付く者は無いが・・。

「・・・・・ヒダリゼンポウニテッキカクニン・・・・キョリ３００・・キョリ５００・・」

　レーダーに目をやると、丁度この位置から見て敵数機が直線に並んでいた。勿論その近くには白い機

体も居るだろう。

「双肩カノン、砲撃準備！照準合わせ！！」

　ディアボロスの翼が大きく広げられ、背中に下ろされていた二つの砲身が回転して肩の上に現れる。

翼が陽光を吸い取るように発光し、砲口にエネルギーが集まる音が聴こえる。

「ロックオンカクニン・・・シュツリョク８５、８６、８７・・・」

「双肩カノン砲発射！！！」

　白輝する閃光が放出され、ドウッっと大地に響く鈍い轟音が後を追うように大気を貫いて行く。痕に

あるのは、空間ごと削り取られたように脆く半壊した機体達と、青ざめたその機体達のパイロットだけ

だった。

「・・テッキハンスウ・・・・セントウフノウヲカクニン・・・」

「ガオアアアアアアアアアアアアアアア！！！」

　ディアボロスの目は爛々と輝き、ゆっくりと開いた口から声にならない咆哮を上げる。

　その場に居るすべての者が黒い機体に目を奪われる。

「な、なんなんだこれは？？」

　それに乗るゼロライムも困惑を隠せないようだった。

「・・・・キタイシュツリョク・・・ジョウショウチュウ・・キケン・・キケ・・・」

　小パネルに映るサタナキアが突然苦しげに沈黙する。

「な、なんだ？何が一体・・？？？」

「戦闘システムを解除して下さい！早く！！」

　シルフに怒鳴られ、慌ててシステムを解除する。

「一体どうしたんだよ・・・」

「力が大き過ぎるのです・・・・。それよりも早く後退しましょう、もう完全に気付かれています！」

「あ、そうだな。やばいやばい」

　ゼロライムはあたふたと後退して行く。ディアボロスも今はもう常態に戻り、先程のが嘘であったか

のように思える。

「ともかく、ギリギリ助かったって事か」

　無理矢理ポジティブな結論を引き出して、何とか一時的に自分を納得させた。

　でも、不思議と怖い感じはしなかった。ただ自分が鈍いだけかも知れないけれど。　　

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