胸に還る言葉ありき

遥か遠方までもを見据えよ

　迫り来る斬撃をＳ字に旋回しながらぎりぎりで避ける。

「まったく、横Ｇは中年男には辛いのう」

　先程から銃撃はまったく当たっていないようで、焦りも募ってくる。流石に旋回しながらの射撃では

命中率は運次第と言っても良い。元々サラマンダーは機動性を犠牲に火力を得ている為に、旋回する度

に駆動系が擦り切れそうな程の悲鳴を上げる。

「くっ、寿命が縮むわい！」

　精霊力も水と炎で打ち消し合い、元々肉弾兵器相手では効果も薄い。

　右からの一撃をかわせば次は左と言うように、最早避けるだけでも至難の技になって来ている。

「動きを止めるか、せめて距離でも取れれば戦いようもあるのにの」

　青い二機は大岩等も利用して、常に効果的に退路を塞ぐ。必殺の全弾射撃も近距離では自爆してしま

いかねない。

「ううむ・・・・、これはわしも覚悟を決めねばの！」

　サラマンダーに搭載された重火器は全て着脱され、ガラガラと地面に転がる。

「おりゃっ！！」

　そしてドランク機はその重火器の一つを取って、青い機体に投げ付けた。

「何ッ！？？」

　青い一機レグス機はとっさに横に飛び込んでそれをかわす。

「行くぞい！！」

　その隙を狙い、ドランク機はもう一方のマリエル機へ向けて突進する。両腕の拳が引き込み、代わり

に飛び出した赤い刃が煌くように両腕の付け根を狙う。

「あの機体で仕掛けてくるなんて！？」

　流石のマリエルも判断が遅れ、まともに突進を受けてしまう。

「ふんッ！！」

　そのままよろけた機体へドランクの気合一閃、マリエル機の左腕が根元から切り飛ばされる。

「きゃあッ！！」

　バランスを崩したマリエル機は切り上げられた刃の衝撃と共に、手足をバタバタと動かしながらも鈍

い音と共に転がって行く。

「マリエル様ッ！？」

　レグスはドランク機の追撃を防ぐ為に全速で機体を走らせる。

「くおおおおおおッ！！」

「ぬうおおおおおッ！！」

　レグス機とドランク機の刃はがっしりと組み合い、キンと澄んだ音色を響かせてギリギリと絡み合う。

その度に刀身に宿る赤と蒼の精霊力が火花のように散り乱れ、その様は花弁が発電しながら舞っている

ようにも錯覚させた。

　互角かと見えたその鍔迫り合いもじりじりとドランク機が押し始めた。

「パワーならば負けんぞい！とりゃあああ！！」

「うおッ！」

　耐え切れず跳ね飛ばされたレグス機に赤い刃が迫る。

　その時、鈍い激突音が戦場を木霊した。

「ぬおッ！？」

　横から突撃して来たマリエル機に寄って逸らされた刃はレグス機を掠めたのみであった。

「やはり、二機相手では分が悪いの・・・・。しかし・・・・」

　散開して行った部下達もそれぞれ善戦しているようだが、他を気にする余裕は無いだろう。

　無防備に佇むしかないドランク機に、青い二機の反撃が迫る。

「むう、ここまでかの・・・・ん！？」

「なッ！？」

　別の覚悟を決めたドランク。しかしその眼前でレグス機に爆音が激突する。そして不意の銃撃に為す

術無くマリエル機に激突し、二機揃って弾き飛ばされて行く。

「お主！？」

「遥か遠方までも見据えよ！だ、ドランク！」

　銃砲の聴こえた遥か先に居たのは、大岩に凭れる碧の機体イザリー機だった。

「ふん、お主にその台詞を言われるとはの。そう言えば、お互いアウグストゥスの選帝公閣下に良く言

われたの。忘れ取ったわい」

　ドランクは両頬を叩いて再び気合を入れた。

「このドランク、まだまだ簡単には負けんわい！！」　　

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