場違いな闖入者

澄み渡る残骸達

「これでまた解らなくなったか・・・」

　機体の腰部の弾痕から潤滑油がだらだらと流れ落ちる。

「不意打ちとは言え、かなりのダメージだな」

「んん・・・・」

「マリエル様、大丈夫ですか！？」

「はい、私は大丈夫ですわ・・・レグス様の方が・・・」

　マリエル機にはほとんど外傷も無い。

　しかし今も断続的に弾丸が襲って来ている。土煙が巻き起こっている為に、命中が定まらないのだろ

うが、それでも確実に至近距離に打ち込まれている。

　くぐもったような大地への着弾音が鈍く聴こえる。

「碧の機体の動きは封じたはずなのですが、私が甘かったようです。取り合えず、散開して回避しまし

ょう」

「でも、レグス様は基地にお戻りになった方がよろしいですわ・・・・」

「ええ、無理そうなら退却しますよ。しかしこのままでは遠からず壊滅させられてしまいます。部下達

ももう半数を切っているのですから・・。せめて指揮官機だけでも仕留めておかねば・・」

「解りました。では、レグス様は援護をお願いします」

「マ、マリエル様！」

　マリエル機は断続的に巻き起こる土煙の中を最大出力で一気に駆け抜ける。

「あそこまで機体の能力を引き出すとは・・・、マリエル様の魔力もかなりのものだな・・」

　レグスは精霊力レーダーと弾丸の来る方角を頼りに、両手で構えるソードライフルを撃ち始めた。

　距離はまばらにあちらこちらから聴こえる着弾音と炸裂音が、未だ戦況が緊迫したのものである事を

知らせている。

「どこからでも来るが良い！！」

　ドランクは土煙がかなりのスピードでこちらへ突っ込んで来るのを視認した。そして、その時の衝撃

に備える為に体勢をおとし、四本の脚にぐっと体重を乗せる。

「はあああああああああッ！！」

「来い、若いの！！」

　気合を乗せたマリエル機の突進を両腕の刃で受け止め、大地と脚部を喚かしながらぐぐぐっと押され

て行く。そのまま数メートルの距離を滑走し、抉れた地面で脹脛辺りに少しばかりの小山が出来た。

「ふん、その程度ではビクともせんの。帝国機を舐めるなよ、若造めが！！」

　ドランクは溜めたモノを爆発させるように、出力を一気に開放し。マリエル機を弾き飛ばす。

「きゃああああッ！！」

「このドランク、まだまだサシでは負けんわい！ましてや手負いの機体などにはの」

　そして止めを刺すべく両腕を振り上げたその時。

「む、この圧迫感は・・・・・・ぬおっ！？」

　いきなり降り注ぐ白い閃光を後ろに跳びながら前部バーニアを全開にしてからくも避ける。

「あ、あれは！？」

　雲の切れ間からゆっくりと降りて来たのは、その晴天の雲よりも清らかな程真っ白な巨大な女性像の

ような柔らかなフォルムを持ち、強靭さを兼ね備えた中性的とでも言えそうな機体だった。マリエル専

用の始祖機シルバー・ヴァルキリーにぱっと見は似ているが、そこから来る締め付けられるような圧迫

感は、あの暴走時のディアボロスすら凌駕しそうに感じる。

　まるで天使のような翼を幾枚も広げながら天に立つその様は、古に伝わる最初の人類にして最も強大

な始祖魔術師、光と闇の１２枚の羽を持つ者を思わせる。

　腰部から八つ帯のように揺らめくモノの先から、再び白い閃光が迸る。

「何ッ！？一体どういう事だの！」

　その閃光は敵味方の区別無く、次々と機兵達を貫いて行く。まるで無慈悲に。

　そして両軍全機の通信パネルに映る皮肉に歪んだ顔から、耳障りな笑い声が戦場の隅々にまで響いた。

BACK・ EXIT・ NEXT